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  幸せ家族計画 16  

「う、わ……っ」
 急に腕を引かれ、身体がソファの上に倒れ込む。うつ伏せに倒れた身体を反転させて、皆本はきつく腕を引いた犯人を睨みつける。
「何するんだ、兵部」
「さっきからうろちょろされて落ち着かないんだよ」
 憮然とそう言い放つ、まるで皆本に非があるようなその言い方にむっと顔を顰める。
 肘をついて身体を起こしながら、皆本はソファに座りなおし溜息を吐く。この我侭男にはどんな一般的な言い訳も正論も通用はしない。
 久し振りの二人揃った休日。晴れ渡った空の下には、洗濯物が風に揺られはためいている。
「うろちょろって……。僕は仕事をしてただけだろう」
 二人だけの、どこか面映いような昼食を終えた後に食器を片付け、先程漸く洗濯物を片付けることができた。後は掃除機をかけるだけなのだが、一度身体を落ち着けてしまえば再び動こうという気にはなりにくい。
「お前もぼけっと座ってるくらいなら手伝ってくれればいいのに」
「やだよ。それは君の仕事だろう?」
 即答で、いけしゃあしゃあと返してくれる兵部に皆本は反論しかけた言葉を飲み込んで、代わりに溜息を吐き出す。今ここで何かを言ったとしても、まったく聞く耳を持たないことなど既に承知のことだ。
 最初の頃はそれでも兵部にどうにか動いてもらおうと躍起になっていたものだが、今ではもうすっかりと諦めている。しかし、一応、皆本が大変そうにしていれば多少は手伝ってくれるような時もあるのだから、その辺りはこの男も進歩しているのかもしれない。
「もう終わりかい?」
 わざとらしく聞こえてくるその声にふつりと沸いてくる理不尽さに似た怒りを喉元で抑えて、ソファに深く身を沈める。
「休憩だよ」
「ふぅん」
 自分からそう仕向けたくせに、返されるのは興味のなさそうな曖昧な生返事。
 それももう慣れたものだと流れていたテレビへと視線を移して、ソファの軋む音にちらりと横目に盗み見る。
 しかしばっちりと絡んだしまったその視線の先で、ゆるりと口元に刻まれる、笑み。
「だったら、僕の相手してくれるよね」

「ん、ふ……、ぁんっ」
 深く舌を絡め合わせ、互いに擦り付けあう。口内に溢れる唾液を飲み込んで、与えられる口付けの甘さに酔い痴れる。
 兵部の膝の上に乗り上げた不安定な体勢に縋るように首に回した腕に力を籠める。くすりと、間近で笑ったと息は皆本のその行動によるものなのか、下にある兵部の顔を見下ろせば、口元には微笑みを湛えたまま、皆本を見つめてくる。
 笑んだ唇から赤い舌が覗き、皆本の濡れた口唇を舐め上げる。ひくり、と揺らいだ身体に、楽しげに目が細められた。
「もっと?」
 問い掛けてくる口調は、断られるとは思っていないのかひどく楽しげだ。
「……もっと」
 欲望に素直に、ねだる言葉を呟けば更に笑みは深まり、直ぐに重ねられる唇。
 ぬめる舌に唇を割られ、口内を蠢くそれに丹念に舐めまわされる。掬うように舌を絡め取られ、ずくりと腰が重く痺れる。
 身体を支える手が脇腹を撫で、そのままベルトを外し前部を緩めたズボンの中へと入り込んでくる。下着越しに性器を撫でられ、塞がれた唇からくぐもった声が漏れる。
 包み込むように軽く力を籠められて、身体が怯えたように強張った。
 その反応に気を良くしたように兵部は一度手を離し、今度は直に握り込まれる。
「ひ、ぅ……!」
 敏感な先端を指の腹に擦られ、思わず腰が跳ねる。しがみつくように首に抱きつき、視線を下げればただ涼しげに見返してくる眼差し。
「かわいいね」
 くすり、と笑う声にかぁ、と頬が上気する。
「うるさいっ」
 逃げるように身を捩るが、性器を掴まれているせいで思うように身体を動かすことが出来ない。それどころか更にそれを愛撫するように擦られ、下腹へと血流が集まっていく。
「元気だね」
「お、前が触るからだろ!」
 兵部の指が動かされるたびに、淫猥な水音が耳に届く。
 徐々に硬さを増していく性器を刺激されて、皆本は唇を噛み締めて込み上げてくる喘ぎを耐える。
 まだ陽も高い昼間。そんな時間帯から事に及んでいる背徳に、ただ与えられる快楽のせいだけでなく、肌が震える。
 止めさせることは簡単ではあるが、居た堪れない羞恥もあるが、この手から本当に逃れようとは思わない。寧ろ、もっとして欲しいような、これだけでは物足りないような気もして、無意識に揺れ動く腰を抑えることは出来ない。
「っ、あ…、は、ぁ……っ」
 揺れる腰は性器を掴む手により擦り付けるように動き、伏せられた瞼の上で睫毛がひくひくと震える。
「気持ちいいかい?」
 直接耳に吹き込まれる、低い声。ぞくりと肌が粟立ち、兵部の手の中のそれもぴくりと跳ねる。先端から溢れる先走りが兵部の指に絡め取られ、ちゅく、と音が響く。
 こくこくと首を縦に振ればまた小さく笑う声が聞こえ、性器を弄られる。
「は、ァ……、ん、ぅ…っ」
 窮屈な下着の中で絡みついてくる指が大胆に動くことはない。だがそのぎこちないような動きに、焦らされているような物足りなさがわだかまりのように胸に募る。
「ひょう、ぶ…っ」
 しがみつくように肩に縋り、起き上がった性器を手に押し付ける。湿った水音に、聴覚からも犯されていく。
「なんだい?」
 優しく囁く声の中に含まれた笑みに、一瞬声が詰まる。
「っ、も…出そう……っ」
 ぎゅっと指を握り締めて、訴える。
 下腹に溜まった熱が弾けだしそうな気配に、兵部も焦らすつもりはないのか追い立てるように手の動きを早める。
 部屋の中には皆本の喘ぎと性器を弄る水音が響き、真昼の部屋の空気が濃密なものへと変わる。弾け出した白濁はそのまま兵部の掌に受け止められ、一瞬の強張りの後に皆本は弛緩する身体をそのまま兵部の胸へと預けた。
 上がる呼気を抑えようと大きく息を繰り返し、顔を上げればすぐに唇が重なり合う。触れるだけの啄ばむような口付けを交わしながら、整い始めた呼吸にほぅ、と息を吐く。
「……ヘンタイ」
「僕の相手をしてくれない君が悪い」
 正論を翳すように返されるその言葉に胸中で溜息を吐く。それでも透視されたか顔に出ていたか、むっと兵部の顔が不機嫌に変わる。
 立ち上がるため、支えを借りようと肩に手を突きフローリングに足を下ろした所で、また唐突に引き寄せられる。今度は少しの回転を効かされ、胸に背を預けるように座り込む。
「だ、からっ。引っ張られると危ないだろっ!?」
「どこに行こうとしてるの」
「え……」
 首を捻って後ろを振り向けば、兵部が手に滴る白濁を見せ付けるように赤い舌で舐め取っていく。その光景の卑猥さに、くすぶる熱が反応する。
「これからが本番に決まってるだろ?」
 腰を引き寄せられ、臀部に押し当てられるその硬さに、萎えた性器がぴく、と跳ねた。

「ん、は…、ぁ、んン…っ」
 焦らすように、ゆっくりと入り込んでくる熱に吐息が震える。侵入を果たしながら性器を弄られ、まるで自分で自分を犯しているような感覚に目の前が白む。
 深く、腰を沈み込めばぴたり、と身体が密着し首筋に掛かる吐息がくすぐったい。無防備に晒すうなじを舐め上げられ、びっくりして身体を跳ねさせれば無意識に兵部を締め付けてしまう。
「ぅ、あ…っ」
「いやらしいな。そんなに早く欲しいの?」
 耳をくすぐるように吹きかけられる吐息混じりの声。違う、と否定するには身体はすっかりと兵部を受け入れてしまっている。
「ぁ、ぁ……、はや、くっ」
 皆本の身体を抱いたまま、動く気配を見せない兵部に焦れたようにねだる。腰を揺らめかせ、今度は意識して締め付けると、息を詰めるような声の後、握り込まれた性器の先端に軽く爪を立てられる。
 与えられたその刺激に蜜を滴らせながら、震える息を吐き出す。
「どうして欲しいのか、いってごらん?」
 髪を撫でるような優しさで囁かれ、小さく喉を鳴らす。顎をつかまれ振り向かされて、絡んだ視線にきゅ、と胸が疼く。
「……お前と、気持ちよくなれるならそれでいい…」
 ひとつになれるのならどんなことをされても構わない。
「そんなこと言われると君のこと壊しちゃうかもよ?」
「ン、ぅ……、それ、は……困る」
「僕もさ。……だから、ギリギリまでいじめてあげる。壊して、って言いたくなるほど、気持ちよくしてあげる」
「やぁ…っ」
 言いながら興奮したのか、皆本の中の性器が大きく脈打つ。そのまま身体の奥を突かれ始め、何も考えられなくなってくる。
 ソファを軋ませながら身体を穿たれ、出入りする熱に翻弄される。
「ん、ア…ッ、ひょ、ぶ…」
「光一の中すっごく気持ちいい。ずっとこうしていたい」
 囁かれる声に蕩かされる。鼓動が跳ね、そこからいっそもどかしいばかりの多幸感が広がる。
「僕、も……。京介さんとずっとこのままいたいっ」
 溢れる感情のままに想いを吐き出して、浅ましく腰を揺らめかせる。ぞくぞくと背筋を駆け上がっていく愉悦に思考が白く染まる。

 幾度吐き出しても治まらない欲求。
 求めれば求めた分だけ飢餓を覚えていくようで、愛に溺れる。
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