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  幸せ家族計画 15  

 性器を擦られれば感じてしまう。それはどうしようもない雄の性だ。我慢しようと思っても耐えられるものではない。
「ふ、ぁ…っ、あ、ああっ」
 擦られるたびに湿った水音が響く。溢れた蜜は指先に絡められ、刀身に塗り込めるように指が動く。
 逃げようとする腰は捕らえられ、身を捩る動きはねだるそれと似ていた。
「随分溜まっていたみたいだね、皆本君。自分で処理しなかったのかい?」
 くすくすと笑いながら、煽られる。キッと睨み付けても、どこ吹く風と相手にされない。
 皆本は込み上げてくる喘ぎを耐えながら、性器を掴む手に爪を立てる。
「おいたはいけないな、坊や」
「だ、まれ……っ、変態ジジ――、ひぅっ」
 浴びせかける罵言は、双丘の奥を弄る手に遮られる。反射的にきゅっと後ろを締め付けてしまえば、また笑い声が耳朶を打つ。
 布を巻き込むように、探り当てられた蕾の中に指が侵入を試みる。不快なその蠢きに暴れてみても、前を掴む手が動きを封じる。碌な抵抗も出来ず、ただ腕の中で震えていると不意に後ろの指が離れていく。ほっと息を吐くと、前を掴んでいた手も下着の中から消える。
 身を苛むものが無くなり、皆本の身体は膝から崩れ落ちる。咄嗟に掴んでしまったのは、目の前に居る男の学生服だった。
「ほら。早くそれどうにかしないと子供達が戻ってくるぜ?」
 今皆本と兵部が居るのは、自宅の寝室でもどこの部屋でもない、バベル内にある司郎達の使う待機室だ。特務エスパーになるべく訓練を受けている彼らがこの部屋に戻ってくるまで、あとどれだけの時間があるのか。
 皆本は兵部に縋っていた手を離しどうにかスーツを整えようとするが、膨れてしまった股間はどうしようもない。無理に下着の中に押し込んでも、チャックが閉まらない。それに傍から見れば皆本がそこを勃起させていることは、すぐに分かる。
「こ、のっ、悪趣味ヤロー!」
 ニヤニヤと笑みを浮かべて、宙に浮かんで皆本を見下ろす兵部に殺意にも似た感情が沸く。優雅に足を組んで座っているかのような姿を見せることにも、腹が立つ。
「僕はやめて欲しそうだったからやめただけだぜ?」
「っ。こんな場所でイけるわけないだろ!?」
 咄嗟に叫んでしまった言葉に、皆本はハッと口を塞ぐが既に遅い。
 兵部は驚いたように僅かに目を見開いて、その目を細めると皆本の眼前に降り立ち、指一本で顎を掬い上げる。睨みつけてくる、恥辱に赤らんだ顔。淫らに乱れたままの下肢。微かに香る、雄の匂い。
「じゃあ、こんな場所、じゃなければいいのかな?」
「っそ、そーゆう問題じゃな」
 最後の一文字は兵部の口内に飲み込まれた。優しく掬うように舌を絡められて、鎮まらない熱が温度を上げる。
「ン、ふ……、ぁ、ぁん…っ」
 舌を絡める水音が、ますます身体を煽る。触れ合う熱い吐息。深まる口付けに、腰が甘く痺れてくる。
 それが嫌で、目の前の身体を突き飛ばすように腕を突っ撥ねる。思い切り押した筈だったが、兵部は僅かに蹈鞴を踏んだだけだった。
「ほんと、おいたの多い手だね。縛ってしまおうか」
「い、嫌だっ。そもそもお前がこんな場所でおっぱじめようとするのが悪いだろ!?」
 自らの手を庇いながら、皆本は必死に毛を逆立てる。そんな皆本に兵部は小さく鼻を鳴らし、くい、と指を動かす。
 するとしゅるしゅる、とひとりでに解けていくネクタイ。それはふわふわと宙に浮き、兵部が再び指を動かすと皆本の両腕を拘束する。
 それをただ、皆本は呆気に取られたように見つめていた。我に返ったのは、腕がびくとも動かないと気付いた時。結び目がどこにもついていないそれは、兵部の念動力によって密着させられているのだろう。
「ひっ、卑怯だっ!」
「久し振りの逢瀬なのにつれない坊やが悪い。こっちは本来10日程掛かる仕事を7日で仕上げて帰って来たっていうのに。……君は僕に逢いたくはなかったの」
 どこか寂しげに伏せられる瞼に、皆本はう、と言葉を詰まらせる。もしここに彼を良く知る人物であったり皆本の親友が居れば「演技だ」と声を揃えて指摘してくれただろうが、生憎どちらもここには居ない。
 皆本はあちこちに落ち着かなく視線を彷徨わせて、「逢いたくなかったわけじゃない」とぽつりと呟く。
「でも、だからって逢っていきなりは……ないだろ。僕だってその、心の準備ってもんが……」
「久し振りに君に逢って抑えられそうになかったんだ。……もう準備できた?」
「え? ……や、まぁ、それなりに……?」
 一応質問には答えて見たものの、その質問のおかしさに皆本が首を傾げていると唐突に身体が浮き上がる。不安定さに暴れていると、背中と膝裏を支える腕。思わずまた首にしがみついて、赤い顔で睨む。
「貴様の頭はヤることしかないのかっ」
「坊やを愛することしかないね」
「――っ」
 予想外の言葉に、息が詰まる。皆本の浮かべる困惑に兵部は小さく笑みを浮かべると、額に軽くキスを落とす。
「少々強引なのは自覚してるけど、欲しいものを手に入れるのに手段は選ばない。ぐずぐずしてる間に他の男に奪られるのもむかつくしな」
 まあ、奪らせてやる気はないけど。と、独占欲も露にする男に皆本はしばらく黙り込み、深く息を吐き出す。
 呆れて物も言えないとはこのことか、と思いながらも、もうすっかりとこの男に感化されているのかもしれない。
「なんでもいいから、とっととしてくれ。子供達が戻ってくる」
「そう言われるとあの子達の所に君をやりたくなくなるな」
「……バカ。僕がこういうことをするのはお前しかいないんだから、それでいいだろ」
 言って照れたのか、皆本は顔を兵部とは逆側へと向ける。しかし、髪の間から覗く耳もうなじも、真っ赤だ。その心を透視することはしないが、沸き起こる羞恥に後悔していることは手に取るように分かる。
「そうだね。僕以外の男とこんなことするなら――、その男、間違って殺しちゃうかも」
 心底楽しそうに告げる声。だからこそ、余計に怖い。
 皆本は身震いしそうになる身体を抑えて、「早まったかもしれない」と深く項垂れた。
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