少佐と主任の三歩進んで二歩下がるお話

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  愚か者の見た夢 15  

 事件が終わって、数日後。管理官室には不二子の他に皆本の姿があった。
 渡された報告書を片手に、不二子は皆本の顔を見つめるとふと息を吐き出した。呆れ、というよりは諦めの色が強いその表情に、皆本はただ苦笑を返す。
 何を言われようとその中に書かれていることが全てであるし、皆本の考えが変わることもない。しかしそれは皆本の直感めいたものではあったが、彼女ももう分かりきっているのではないかと、思ったのだ。
 だから今更、不二子の行いを取り立てて責めるつもりは毛頭なかった。彼女にとってはあれが最善の策であり、苦肉の策でもあったのだろう。実際の所、不二子がどう思っているのかなど、皆本には興味が無かった。これは皆本の人生であり不二子の人生ではない。彼女のどんな意見陳述を聞こうとも、そこから変わるものなど何も有りはしないのだ。皆本自身、変わるつもりが無いのだから。
 それに自省の念に駆られているのだろう不二子の姿を見て、それでも責められるほど皆本は人間が出来ていないつもりではなかった。人はそれをお人好しだのと呼ぶのかもしれないが、他人の評価を気にするなど、それこそ今更なのだ。
「皆本君を騙すような形になったのは謝るわ」
「いえ。犠牲を最小限に抑える為には必要なことだった、ですよね」
 結果、皆本は不二子を詰るでもなく非難するでもなく、ただ彼女の言葉を受け止めて無難な言葉を返す。まるで他人事のように。けれど皆本に不二子の言葉をどう吟味する心算もないのだから、それはやはりこの場に置いて模範解答に近い答なのだ。及第点くらいは送られるだろう。
 淡々と言葉を返す皆本にどう反応すべきなのか戸惑っているのか、あるいは自分の正当性を見出す言葉を選ぼうとしているのか。不二子にしては珍しく必要外の言葉は噤んで、経緯を語り出す。
 曰く。
 不二子はパンドラが近々あの施設を襲撃するのだという情報を得ていたらしい。それがどこから得られた情報なのか告げることは無かったのだが――恐らくは非正規のルートから得られたか、言えない事情があるのだろう――きっちりと根拠を押さえた上での正しい情報であった。それでなくとも、兵部は何れ手を出すだろうと彼女は予想はしていた。超能力者の解放を謳うパンドラが、そこに手を出さないという可能性の方が低くもあるからだ。
 パンドラが手を出せばそこに居る研究員達の命の保障はし難い。研究員は全て普通人であるし、隔絶された空間で非合法の組織がどんな事を行っているのかは想像に易い。無益な血は流さないが、そんな彼らを見逃すとは思えなかった。
 そんな組織を野放しにすることはバベルの長としても超能力者としても見過せない。だが、かと言って皆殺しとなるのを知りながらそれを放置することが出来るか。因果応報、自業自得と片付けるには、少々相手に難があった。少なからず政府に属した研究施設がエスパー犯罪者によって壊滅に追い遣られたとなるとますます超能力者と普通人の間に亀裂が走り溝が深まるのではないか。そんな危惧があった。
 兵部とてそれを考えないわけではないだろうし、彼程の人物であれば実験中の事故と見せかけることも出来ないわけでもないだろう。それに相手は超能力者を使って密かに人体実験を行うような連中だ。深く掘り下げられると困るのは誰か。事故と見せかけていたほうが害を被ることは無いのではないか。
 しかしそうして全てを闇に葬るわけにもいかない。蜥蜴の尻尾きりと同じように、上体が生きていればまた同じことが繰り返される。根本から根絶やしにしなければならない。その為の情報源となるものは末端であっても切り捨てることは出来ない。そこから得られる情報は高が知れているといえども、不二子は兵部に殺戮を起こさせたくは無かった。――恐らくそれが彼女の一番の本心なのだろう。
 だからその為にパンドラに、兵部に思い止まらせるだけの何かが必要だった。一介の誰かの言葉に兵部が耳を貸すことはないと不二子はよく識っている。彼と旧知の仲である不二子であっても、兵部は耳を傾けないだろう。寧ろ余計に頑なになってしまう可能性の方が大きいと思われる。知っているからこそ、よくわかる。
 兵部が女王と呼ぶ、薫の言葉であれば耳を傾けたかもしれないが、未だ幼い彼女にこの現実を見せるにはまだ早いと思われた。そして可能であるのならこの事実は一生見せたくないものでもある。日に日に成長を見せつけ、遠くない未来で「破壊の女王」と呼ばれる彼女に今この現実を見せれば今後どんな影響を与えていくか、想像に難くない。わざわざ危ない橋を渡るつもりは不二子にはなかった。
 ではそれは誰が適任と成り得るのか――。
 彼女の脳裏には最近仕入れてしまった情報に基づいて、ただ一人の青年が浮かび上がった。予想だにもしなかった現実に衝撃を齎されたとは言え、賭けてみるだけの価値はあるかのように思われた。少なくともそれは、未来が変わる可能性の無い現実ではなかったから。
 事前にそれを皆本に伝えようとしなかったのは、告げて素直に頷いてくれるか、判断し難かったことが要因として挙げられる。それにあるいは、試していたのかもしれない。彼らの真実を。
 結果思い通りに事が運んだのに、不二子は内心安堵していた。もしパンドラが動かなければその時の策も用意していたが徒労に終わったというわけだ。余計な波風も立たず一安心、といった所か。
 しかし予想外のところで影響を与えてしまったことに、残念ながら不二子はこの時気付くことは無かった。そして気付いた所で全ては今更だという事も、わからなかった。
 もしかしたら。
 変わる事のない未来予知が何を示すのか、気付くべきだったのかもしれないが。
「それでは、失礼します」
「待ちなさい」
 皆本は終始口を噤んで不二子の語った真実を聞いていた。口を挟まずに聞き役に回り、何も告げることは無かった。それどころか用件は以上だろうと退室を試みる。
 一礼し踵を返そうとする皆本を不二子は呼び止める。それに皆本が素直に足を止めると不二子はどうにも複雑な表情を浮かべ、告げる言葉を探しているようだった。
 だが一向に告げる言葉を見つけられない彼女に対して、皆本はただ笑みを浮かべると、
「しばらく見守っていてくれませんか。僕もこのことが予知にどう関わってくるのか分かりません。でもきっと何かは変わってきていると思うんです。それがどんなに些細なことであっても、僕は信じたいんです」
 清々しいばかりの表情で告げられるその言葉を、不二子は噛み締めるように聞いていた。運命づけられたものに対して、果たしてイレギュラーはどれだけの働きを示すのか。この時不二子は初めて見えない未来に慄いた。だが迷いの無い皆本の表情に、可能性が見出せないわけでもない。込み上げてくる複雑な感情を押し留めて、不二子は小さく息を吐き出す。今は、それが精一杯だった。
 その無反応という反応は皆本の予想の範疇であったのか、それともこれも不二子からのアクションにそれ程頓着していなかったのか、皆本の態度は変わらずに淡々としている。しかし想いを言葉にすることによって、どこか晴れやかな表情を浮かべているようにも見えた。
 今はまだ未来は何も変わらない。皆本と兵部の関係がどうなろうとどうであろうと、変化は見られない。超能力者と普通人の戦争は起こり、薫達チルドレンはバベルを、皆本の元を離れ超能力者側の先導者となる。そしてその結末で、皆本は薫を撃つのだろう。
 どんなに未来に抗おうと、まるでそんな努力など何の意味もないのだと嘲笑わんばかりに。解決の糸口を見つけ出そうとしても、それは些細な影響も与えない。
 だがだからといって、未来に屈するようなことはしたくはなかった。この想いが確かなものである以上、皆本にはそれを実現させる権利があるはずだ。叶っても叶わなくても、望む自由があるはずだった。
 それは何人たりとも邪魔されないものであるべきのもの。
「――わかったわ」
「ありがとうございます」
 渋々という態度を崩さずに肯きを返してくれる不二子に、皆本は笑みを返して頭を下げる。彼女の戸惑いも尤もなもので、今直ぐに関係を断てと言われてもそれはおかしな事ではないのだ。それでも不二子はそれを見逃して黙認してくれるという。
 ならば、それだけで充分だ。後は二人がこれから先をどう歩んでいくかだ。きっとこれまでと変わることのない苦悩の日々なのだろうけども、そこから何でもいい、見出せるものがあればいい。
 そうすれば、未来で何かが変わるはずだ。
 皆本はもう一度深く頭を下げると、踵を返して退室した。今回の出来事は、これで全て終わりのはずだった。終止符が打たれ、これからはまた日常が繰り返されると、信じて疑うことは無かった。
 少なくとも皆本は、この時でさえもまだ未来に絶望はしていなかった。

「やぁ、皆本くん」
 皆本が管理官室から自分の研究室へと戻ってくると、そこには先客が居た。肩口で揃えられた銀糸に、その体躯に纏われた黒の学生服。人を食ったように浮かべられた、けれど外見に見合った無邪気な笑み。
 いつも唐突に現れてくれるその人物に、皆本は無意識の内に右手を懐へと伸ばしていた。もうそれは身体に染み付いた条件反射のようで、奇怪な関係が成立している今でも変わることは無い。
 幾度それに苦悩したかも忘れ、それは愚かな人間の所業のようでもあったし、彼らの自虐の戯れでもあるようだった。
「何の用だ――!」
 中空に浮かぶ兵部を睨みつけながら、詰問する。しかし彼は敵の陣中に居るというのにも拘らず余裕の笑みすら浮かべて、皆本を誘い込もうとするかのように恭しく右手を差し出してくる。
 誘惑者の差し出す白い手は甘美だ。
 この場でなければ、皆本はその手に羞恥を残しながらも己の手を重ねるのだろう。
 だがそうするには皆本には理性が働きすぎており、突然の来訪者の真意を読み取るにはまだまだ青二才に過ぎなかった。いや、恐らくはどんなに達観した人間であっても、彼の行動心理は読めないに違いない。気紛れな猫のように、己の気高さは忘れないまま周囲ばかりを翻弄していく彼は、思い立ったら即行動、立ってる者なら敵でも使えが信条の老獪な男だ。
 一体何なのか、皆本が判断に惑い眉を寄せて凝視するのに、兵部は右手を差し出したまま身軽に床に降り立つ。まるで知人の家にでも遊びに来たかのような気軽さだ。そして僅かたりとも断られると想像しない声音で、彼は誘い込む。
「君に会いたがってる子が居るんだよ。来てくれるよね」
「会いたがってる子……?」
 皆本の警戒は解けることがない。
 意外にもと言うべきか生憎と言うべきか、皆本の頭は頑なに出来ている。もうとっくに彼らなりの自虐ごっこは終わっているのに、此処が皆本のテリトリーであることが起因しているのか。
 兵部が告げているのが一体誰であるのか皆本には想像も出来ないし、予想しようもない。兵部自らが出向いてこうして連れ出そうとするなど、兵部をそこまで働かせる人物になど皆本には何の心当たりも思いつきやしないのだ。しかしどこか親しみの込められたような兵部のその言い分に罠でも何でもないのだろう、とはさすがに判断できるが。
 眉根の皺を深める皆本に兵部は少々呆れるように差し出したまま所在無げにしていた右手を下ろす。皆本の鈍感さを非難するようにわざとらしく溜息を吐きながら肩を竦め、あからさまに呆れてみせる。その尊大にも見える態度は、兵部にはよく似合っていた。思い通りにならない現実に拗ねて強引にでも自分の描く通りに進めようとする、子供のようでもあったが。
 しかし、だからと言ってその態度に皆本が何も感じないわけではない。彼が見た目通りの少年であるのならば大人の余裕を持って対応することも可能だったかもしれないが、生憎と現実はその逆である。そして彼が少年の身形をしていることも、また理由の一つかもしれない。皆本は尊大な少年の数分の一の人生しかまだ歩んではいない。心情のままに皆本がムッと顔を顰めてやると、やや強引に腕を掴まれた。
 引き寄せられるように腕を引かれ、崩れたバランスにそのまま兵部の胸へと倒れ込む。倒れ込んだ少年の胸板は、その華奢に見える外見を裏切って逞しい。体格差では皆本が勝っているにも拘らずびくともしない。それが彼の持つ超能力の所為でもあるのかどうなのかは、気にしても仕方ないだろうが。
「うわっ」
「本当に君は小さな女の子を誑し込むのが上手だよね」
「は? ……え、ちょ、ま……!」
 自分の上げた悲鳴に重なって、聞き捨てられない言葉を聞いたような気がした。
 だがもう一度聞き返すその前に瞬間移動能力者がその能力を発動させる瞬間の、独特の空間の歪みのようなものを肌が感じ取った。瞬間移動はし慣れている――され慣れている、が正しいか――のでわかる。慌てて身体を離そうとするが、念動能力まで使われているのかぴたりとくっついたまま身体が離せない。
 そうこうしている間に皆本の視界がブレて、瞬く間に眼前の景色が変わる。いや、瞬きの間もなかっただろう。逃げを打ったのも文字通り無駄な抵抗でしかなかった。たった今までバベルの研究室に居たはずなのに、今皆本が居るのはどこかの部屋の中だ。
 整えられた調度品とその部屋の清潔感や簡素でありながらもそれを思わせない控えめな内装に、ここが恐らくはホテルの一室だろうということは想像できる。兵部が何故そんな場所に皆本を連れてきたのかは分からないが。散々に周囲を振り回すのは最早彼の専売特許と言えるだろう。
 そして皆本を事実上拉致してくれた人物は、呑気な声を上げる。
「皆本くんからそんなにくっついてきてくれるなんて嬉しいなぁ」
「な――っ!」
 背中に回された腕に慌てて腕を突っ撥ねて身体を離すと、今度は素直に身体が自分の言うことを聞く。咄嗟に飛び退くように兵部の傍から離れると玩具を取り上げられた子供のように唇を尖らせる。そんな表情が可愛いなんて思ってしまった思考を、皆本は緩く首を振って追い出す。今はそんな事を考えている場合じゃない。
 改めて、皆本は部屋を見渡す。何も変わった様子など見られないこの場所に、どんな用があるというのか。この場所にわざわざ連れて来た意味は――。
 職場を離れ二人きりでいるという事実に、皆本の意識から警戒することは抜けていた。それもまた、これまでの関係での無意識の反応とも言えた。
 悠然と微笑んだままの兵部に拉致の理由を問い掛けようとしたその時、皆本の足に軽い衝撃が走った。蹈鞴を踏んでどうにか体勢を持ち堪えて足元に目を移し、皆本はその目を驚きに見開いた。そこに、それまでは見当たらなかった少女がぎゅっとしがみ付いてきていたからだ。
「君は――!」
「お兄ちゃんっ」
 皆本の足に抱き付いてきていたのは、あの島で皆本が助け出した超能力者の一人だった。この少女のことは皆本の記憶にも強く残っている。
 どうしてその彼女が此処にいるのか、戸惑いを隠せないまま兵部へと目を移す。彼はいつの間にかソファに座り、仕方がないとばかりの表情で二人を眺めていた。目元を和らげた兵部からは普段以上の穏やかさが見えていた。
「どうしても君に逢いたいと言ってね。彼女が望むなら君達で保護してやってくれないか」
 その台詞に、皆本は大きく目を見開いた。兵部の口からその言葉が出てくるには、あまりにも意外に思えてしまったのだ。しかし兵部は皆本のその反応は予想済みであったのか、穏やかに少女を見つめたまま表情を変えようとはしない。
 皆本は兵部と少女とを交互に見比べて、そして少女と目を合わせるように一度しがみ付く手を離させてしゃがみ込む。あの時は泣き顔と不安げな表情しか見せなかった少女が、今は楽しそうに笑みを浮かべている。どう対応すべきなのかただじっと少女を見つめていると、そのうちに満面の笑みを浮かべていた少女の顔色が少しずつ曇っていく。
 泣き出す手前のような表情に皆本がどうしたのかと慌てて慰めようとするその前に、ぽんぽんと少女の頭を優しく撫でる白い手が映った。――兵部だ。
「彼女は超度3の接触感応能力者だ」
 兵部の短いその言葉でも、状況を理解するには充分だった。
 恐らくは皆本の中に渦巻く戸惑いを、彼女は自分が会いたいと望んでしまったからだと、それを皆本は望んではいなかったからだと感じてしまったからだろう。超度3ほどでは、皆本の思考の深い所まで読み取ることは出来ない。それでなくても、皆本にはある程度の超能力に対する耐性も出来つつある。
 少女の能力を知らなかったから、とはいえ迂闊だった。己の失態を皆本は噛み締めて、少女へと手を伸ばす。ゆったりと、安心させるように頭を撫でてやると恐る恐るというように視線を合わせてくる。
 そんな少女に対して、皆本は偽りなどではない笑みを見せる。
「元気そうで安心したよ」
 あの事件からそう日にちは経っていないが、少女の顔に憔悴の色は見られないし肌の血色もいい。同年代の子に比べると少々身体が痩せ細っては見えるが、それは今後の生活如何によって改善されるだろう。
 よかったと、そう呟いてもう一度少女の頭を撫でると、満面の笑みが咲き誇る。
「全く君って子は……」
「僕に会いたがってるって言ってた子はこの子のことか?」
「そうだよ」
 素っ気のない兵部の返事を聞きながら、皆本は少女を見つめる。あんな目に遭わされていたにも拘らず、こうして笑みを浮かべてくれていることが嬉しい。早くに保護することが出来ていればあんな目に遭うこともなかっただろうが、過ぎたことは今更もうどうしようもない。
 願わくばこの先もずっと彼女が笑みを浮かべ続けていますように。ただそれだけだ。
「でも、兵部。この子を僕達で預かるって……」
「この子は君の事が気に入ってるみたいだしね。君をパンドラに連れて行くことは出来ないが、彼女を君の下に連れて行くことは出来る」
「……いいの、か? それで」
 肩を竦めて話す兵部に、皆本は戸惑いの色を隠せない。
 そんな皆本に対して、兵部は更に肩を下げた。
「勘違いしてもらっちゃ困る。パンドラは行き場を失くした、あるいはそこに居場所を見出した超能力者達の為の居場所だ。他に行きたい場所があるなら、好きにさせてやるさ」
 望まない者を留めさせるのは流儀じゃない、と兵部は不機嫌に告げる。自ら反発を生み出すような行いはしない。
 行きたい場所があるのならどこにでも行けばいい。けれど、そこに居場所を求める者は一度そこから去って行った者でも歓迎する。迷う者がいるのなら誘いの手を差し出す。それを掴むかどうかは、本人次第だけれど。
「……わかった」
 皆本はふと息を吐き出すと、改めて少女と向かい合う。
「僕と一緒に来るかい?」
 刹那、少女は大きく目を見開いて皆本を見つめる。どう答えればいいのか答えを探すように落ち着きなく視線を彷徨わせて、顔を俯かせる。
 俯いた少女に皆本は答えを急がせることなく、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「君が望むのなら学校に通うことも出来る。リミッターをつけなければならないけど、他の子と同じように生活できるようにもなる。君が望むように、自由に生活が出来るんだよ」
「……でも、わたし…………」
「うん。焦らなくていい。少しずつ、いろんなことに慣れていけばいいんだ」
 望めば、願えば、何にだってなれるし、どこへでもいける。
 自分達はただその手助けをしたいだけだ。
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