解き放たれる、無限の可能性

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  禁じられた遊び-02  

 ヒノミヤが部屋に足を踏み入れると、兵部は振り返って待っていた。手振りで示されるままに扉をきっちりと閉め、足音を忍ばせてベッドに近付く。
 律儀に兵部の言葉を守る謂われはなかったが、これから起こる背徳の予感に、これが兵部に脅されたものであるという体を逃したくはなかった。
 そんなヒノミヤの心情など見透かしたように、兵部は小さく笑いを零してベッドの正面を譲った。
 皆本は、ヒノミヤが覗き見た体勢から動かされることもなくベッドに倒れ込んでいた。大きく広げた脚は閉じることが出来ないように手足と手首をそれぞれ繋がれ、背中をベッドに沈めたせいで身体の中心がはっきりと晒されている。
 赤い紐を巻き付けられた陰茎は勃起した状態で放置され、溢れた雫で卑猥に塗れている。本来は排泄器官であるはずの場所には玩具が埋め込まれ、赤く腫れた襞が丸く大きく口を開けていた。
 そうして締め付けてしまうものが苦痛であるのか、皆本は腹を波打たせて口枷の奥から呻きを上げる。背けられた顔に滲む屈辱の表情は、羞恥の色づきが混ざることで雄の征服欲をそそられる。
 何度か会ったことのある皆本は、生真面目な印象が強かった。真面目な優等生のような立ち居振る舞いで、年の頃だってヒノミヤとそう変わらない。そんな見知った人間が目の前で淫猥な辱めを受けている状況に、ヒノミヤは仄暗い欲望を隠すことが難しかった。
 同性の男に欲情する事実は信じ難いのに、高まる股間の疼きは騙せない。
「っ」
 突然、背中を押されて、ヒノミヤは弾かれたように皆本から視線を剥がした。兵部を見つめると、愉快そうな表情をしてヒノミヤの耳元に顔を寄せてくる。
「気を付けろよ? 皆本クンは聡いから」
 悪戯を企んだ声に、ヒノミヤが罰の悪い顔をする。声を潜めるためだろうが、かかる兵部の息がくすぐったくて、ヒノミヤは身を捩って不快を示した。
 それに兵部はあっさりと身体を離し、ヒノミヤをベッドへと押し進める。乗り上げた際に響いた軋みに、大人しくしていた皆本から抗議の呻きが上がった。
 思わず、身体を硬くしたヒノミヤに兵部が笑う。けれど兵部が声を掛けるのはヒノミヤにではなく、皆本に対してだ。
「放置されて寂しかったのかい? けど、離れたのは少しの間だったし、君が寂しくないようにちゃんとこれをあげたじゃないか」
 楽しそうな口振りで皆本へと話しかけながら、兵部がヒノミヤの手を繰り内奥へと埋めた玩具の底を突く。
「う、んっ……うぅっ」
 内部への刺激に、皆本は上体をくねらせて尻を震わせる。窄まる襞に指先が撫でられて、その感触にヒノミヤは知らず肩を跳ねさせていた。
 揺らしてしまったベッドに皆本が勘付きやしないかひやりとするが、内奥を抉られそれどころではないのか、変化は見られない。思わずヒノミヤが安堵の息を洩らすと、兵部に操られる指が玩具を更に奥へと押しやっていた。
「う……ううっ」
 暴れ出しそうに皆本の縛られた両手足が跳ね、くぐもった呻き声が響く。押し入る玩具に内奥が苛まれているのか、ヒノミヤが指を止めた後も皆本は苦しそうな息を繰り返していた。そうして内奥を蠕動させて玩具をひり出す姿に、ヒノミヤは倒錯した思いを抱かずにはいられなかった。
 どれだけの間兵部に嬲られていたのか、赤く腫れた襞は玩具に擦られるたびにヒクつき、抱え上げた四肢が小刻みに震えている。口枷から洩れる息遣いは荒く、泣いたのか、目隠しの一部が濃く色を変えていた。
 その目隠しの下にはどんな瞳が隠されているのか。
 見てみたい衝動に駆られ、だがすぐにヒノミヤは理性を取り戻す。呑まれてはいけないと自身を律しながらも、それでも兵部に操られた己の手が生み出す皆本の痴態に、平常心を保つのも困難に等しかった。
 自然と逸り出す呼吸を鎮めるのも一苦労で、ヒノミヤはじっくりと玩具を出し入れして皆本の内奥を犯す手は止めずに、兵部を振り仰いだ。
 兵部は、それに意図を察せないでいるように首を捻り、静かに唇を笑みに歪めた。兵部が視線を逸らした先には、胸を喘がせ悶える皆本がいる。
「そろそろ玩具にも飽きてきただろう?」
 楽しげな声音で囁いて、兵部はヒノミヤに玩具を引き抜くよう指示する。
「一度に抜かず、焦らすようにゆっくりと引き抜いてやれ。先端を抜くときは、大きく掻き混ぜてからだ」
 唆す声に小さく喉を鳴らして、ヒノミヤは根元を摘んで玩具を引きずり出していく。襞がめくれ、内奥が収縮しているのか時折指先に抵抗を感じる。その抵抗に勢いよく引き抜いて声を迸らせたくもなるが、焦燥感を募らせるように滴るくぐもった声にもっと焦らしてやりたくもなる。
「うぅっ……、うっ」
 半ばまで抜き去ったものを小刻みに揺らすと、皆本が首を振って身を捩る。四肢に走る怯えのようなものを見取り、ヒノミヤは皆本の欲望へと目を向ける。細い紐に縛られた陰茎がひどく張り詰め、先端には透明な雫を浮かばせていた。
 内奥への刺激に快楽を得て、皆本は欲望を熱く滾らせているのだ。
 極まろうとしているのか、ピクピクと痙攣するような動きを見せる太腿にヒノミヤの息も上がり、だんだんとたまらない気分になってくる。
 出し入れを繰り返しているときに見つけた、皆本が感じやすい場所を擦り上げてやりながら玩具を抜いていると、ヒノミヤの耳朶を潜めた笑い声が打った。
「すっかりとその気じゃないか」
 皆本を感じさせているその行為のことを言っているのか、ズボンを押し上げる熱の塊を揶揄されているのか。
 ヒノミヤは気まずく顔を歪めたが、不意に皆本が洩らした鼻から抜けるような甘い声に、意識は奪われていた。思わず皆本を凝視してしまうと、玩具の先端部だけを含まされた尻が揺れ動いた。
 襞を押し広げる太いモノを疎ましく思ったのだろうが、ヒノミヤにはそれが誘惑しているように見えた。女のように丸みがあって柔らかそうなものではないのに、玩具を咥えて丸く広がった襞の妖しさや、そこを弄られて感じ入っているのだろう声が、女よりもいやらしい。
 男でもここまで感じるものなのかと、興味が沸く。
 たまらず喉を鳴らしたヒノミヤに、悪魔のような男が更に囁きをかけてくる。
「早くその玩具を抜いて、君の太いのを入れてやれよ」
「っ!?」
 ヒノミヤは咄嗟に、兵部を見つめていた。そのとき、ぶれた指で無遠慮に玩具を動かされ、皆本が苦悶の声を上げる。
 本当にいいのかと、半信半疑で縋るようにヒノミヤが見つめ続けていれば、兵部は慈悲めいた表情で頷く。それを見てヒノミヤは自分が犯す穴を見つめ、股間を甘痒く疼かせた。
 呑まれるな、と思うのに、高まる渇望を抑えられなくなる。抑える必要もないではないか、と誰かが自分の中で唆してくる。
 これも兵部に試されているのだろうか。
 自分が犯しているのは普通人で、パンドラを捕縛しようとしている男だ。ヒノミヤが――パンドラの一員である者が庇い立てする義理はない。普通人を憎んでいる者も多く、この行為はその憂さ晴らしの一環か。
「遠慮することはない。皆本クンはこう見えてスキモノでね。咥え込めるなら何でも構わないのさ」
 ヒノミヤは反射的に嘘だ、と呟きかけていた。
 だが、そう言い切れるほどヒノミヤは皆本のことを知っているわけではない。その素性や人となりはある程度把握しているが、性癖まで調べたわけじゃない。
「ぅっ」
 ヒノミヤの葛藤を邪魔するように、股間の膨らみが兵部に弄られる。ズボン越しに揉み込み、熱を煽るその慣れた指に、息が乱れる。
 皆本にバレないようにと、息を潜めて耐えるその分だけ、神経が尖り余計に兵部の指に意識を向けてしまう。その欲望の猛りを、ヒノミヤは皆本を犯すことで紛らわせようと玩具を動かす。
 抜け落ちそうになる玩具の先端だけを中に引っかけて、浅いところを小刻みに突き上げる。探るように場所や角度を変えながら繰り返し、皆本の反応のよかった場所を執拗に嬲る。
「うぅっ…、う…ううっ」
 皆本は四肢をピクピクと痙攣させて、声を絞り出す。ヒノミヤが弄るその上では、皆本の欲望が膨らみだらしなく涎を垂らしていた。
 根本を縛る紐が食い込み、痛々しくもあるが、それでも欲望を漲らせる貪欲さに同情心も薄れていく。
「そろそろいいだろう」
 耳元で熱い囁きが聞こえてくると同時に、ヒノミヤの股間を弄っていた指が離れた。名残を惜しんで揺れた腰が恥ずかしくもあったが、この時既にヒノミヤは昂った熱を皆本の中で解放することだけを考えていた。
 玩具を最後まで引き抜くと、男性器を模した卑猥な淫具が皆本の腸液に塗れた姿を見せる。こんなものを咥えていたのかと、ヒノミヤは改めて皆本のいやらしさを感じた。
 大きさは恐らく一般的なそれと変わりないだろう。ならば、ヒノミヤの欲望も簡単に咥えられるはずだ。
 玩具を取り上げられた穴は、物欲しそうにヒクつきながらも、慎ましやかに窄まる。これからそこを犯すのだという征服欲は、ヒノミヤを心地よくくすぐった。
 一度ベッドから降り立ち、誰かの前で欲を晒す羞恥はあったが、今更だ。ここまでしておいて拒否権も何もない。やはり出来ないと、善人ぶるつもりもない。
 それに、兵部が皆本を犯すのは一度や二度のことではないはずだ。ならばどんな感情であれ、兵部が抱く身体に興味があった。他人の者を穢すような倒錯した思いを抱く。それは否定しない。
 下半身だけを晒して、ヒノミヤは今度は自らベッドに乗り上げた。
「さあ、坊やの好きなものをあげよう」
 そう告げて皆本の頭を撫でた兵部の手を、皆本が煩わしそうに首を振って拒絶する。兵部はそれにおかしそうに唇を歪め、おもむろに口枷を外した。
 枷を外された口から、だらしなく唾液が滴った。
 熱い吐息を洩らす唇にたまらずむしゃぶりつきたくなるような欲求を抑えて、その代わりにヒノミヤは窄まりに猛った欲望を擦り付けた。
「ひっ」
 息を呑んで、皆本が身体を硬くする。しかし、熱を押しつけられた窄まりは従順に蕩けて、ヒノミヤを迎え入れる。
 慎重に腰を押し進めながら、ヒノミヤは皆本の身体の熱さを堪能していた。先端を咥えた中が熱くうねって、ヒノミヤを締め付けてくる。
「あっ、ああ……っ、よせっ」
「そんなこと言っても、君のここはおいしそうに咥え込んでいるじゃないか」
 兵部の指が、ヒノミヤを咥えて広がった襞を撫でる。
 きつく収縮する内奥に、ヒノミヤは喉の奥で呻きを耐えて、より腰を密着させようと熱を穿った。
 皆本の内奥は狭く、熱い。慣らされていたせいかヒノミヤを呑み込むことにも抵抗はなく、むしろ悦んでいるように粘膜が蠕動する。
「そろそろここを漏らしたいだろう?」
 張り詰めた皆本の欲望に兵部の指が絡み、擦り上げる。すると内奥の淫らな蠢きを味わっていたヒノミヤの欲望に絡み付くように、粘膜がきつく収縮する。
「くっ、ぅぅ……っ、嫌、だっ」
 皆本の悲壮の篭もった声も無視して、兵部は根本を戒めた紐を解いていく。
「さっき見つけた彼のいいところを擦ってやれ。それだけで噴き上げるぞ」
「っ」
 兵部の卑猥な囁きに、ヒノミヤの欲望が熱く脈打つ。
 ヒノミヤは兵部の指示に従って、内奥深くを突いていた熱を引き抜き、玩具で弄っていた場所を執拗に擦り上げた。
「あっ、あううっ、く……んぅっ」
 ヒノミヤの突き上げに皆本は唇を食い縛ろうとするが、すぐに緩んで喘ぎ声が上がる。弱みを擦られるのがたまらないのか、皆本は不自由な上体をくねらせて悶えていた。
 お膳立てはされていたが、同性を組み敷き蹂躙する背徳が、内奥の見せる淫らなうねりと疼く欲望が、ヒノミヤの背筋を震わせ理性を忘れさせる。
「は、あっ……、いっ、く……っ、でるっ……!」
 上擦った声を上げて、皆本がヒノミヤを締め付けながら絶頂を迎える。本当に後ろだけの刺激で皆本が達してしまったことをヒノミヤは呆然と見つめ、胸元にまで飛び散った白濁に喉を鳴らした。
 自分が絶頂に押し上げたのだという、達成感に近い感情に後押しされるように、征服欲が疼く。
 しかし。
「も、いいだろ……。無関係な人間を巻き込むな」
 息を荒くさせたまま紡がれた言葉に、ヒノミヤはビクリと身体を揺らした。――気付いていたのか。いったいいつから。
 熱が冷めていくように、血の気が引くようにヒノミヤは我に返った。無理矢理皆本を犯してしまった事実が、容赦なくヒノミヤを襲う。
 だがヒノミヤの動揺もよそに、兵部はこれ以上隠す必要もないと喉を鳴らす。
「へぇ。いつから気付いてた?」
「……最初から。お前が離れて、誰かを連れて戻ってきた時から」
 目隠しを外された皆本は、上気した顔を歪めながら兵部と、己にのしかかったヒノミヤを見て、静かに息を吐き出した。
 居た堪れなさやら申し訳なさに、ヒノミヤはこうなっても萎えない自身を引き抜こうと腰を動かしたが、兵部に後ろから腰を押され、逆に皆本の中に深く捻じ込んでしまう。
「あっ」
「くぅっ」
 兵部の暴挙に、ヒノミヤと皆本が同時に声を上げる。粘膜を蠢かせて締め付けてくる皆本に、ヒノミヤも欲望を熱くして中を擦る。
 二人して欲望のうねりに悶えていると、兵部が自らも猛った欲を晒して皆本の顔のそばに膝をついた。昂った欲望を無造作に皆本の唇に擦りつけながら、兵部はヒノミヤへと笑いかける。
「皆本クンをイかせてあげたんだから、君もイかせてもらえよ。皆本クンは中に出されるのも好きだから、気持ちよくしてもらえるぜ? ヒノミヤ」
 兵部の明け透けな物言いに、ヒノミヤは不快感を見せるように眉を顰めた。――もっとも、昂ったままの欲望を見せ付けた状態では、信憑性に欠ける表情ではあるが。
「……最低だな、お前」
 ヒノミヤの詰りを、兵部はおかしそうに笑い飛ばす。
「でも皆本クンは嫌がってないだろ?」
「……」
 皆本は伏せた睫を切なそうに震わせ、顔には諦念を浮かばせながらも、兵部の欲望を口に咥えて、舌を伸ばして愛撫を繰り返している。兵部が指示を出した声は聞いていない。つまりは自主的に――あるいはそう仕込まれた通りに、皆本は兵部に服従している。
 そしてヒノミヤを含んだ内奥は、動かない欲望に焦れて刺激を求めているように蠢いていた。
「――恨むなら、兵部を恨んでくれ」
 そう、己を巻き込んだ元凶にすべてをなすりつけて、ヒノミヤはせめて皆本も気持ちよくしてやろうと弱みを擦ってあげながら、自身の欲望を内奥深くへと迸らせた。
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