解き放たれる、無限の可能性

目次

  cat party  

 触れていた唇を、そっと離す。ぎこちなさの消えないその仕草に互いに目を合わせることは避け、確かめるようにもう一度、唇を触れ合わせる。口付けと呼ぶには、拙いものだ。
 それでも離れては触れ、触れては離れを繰り返して、徐々にそれは深く変化していく。唇の隙間からは互いの乱れた呼吸が響き、唇を塞がれたその奥で、呻くように声が零れた。
「はっ……、本気、かよ」
「……冗談でこんなことをすると思うか?」
「思わないね」
 再び重なろうとする唇を、ヒノミヤは軽く顔を背けて避ける。紡いだ言葉に返された答えはヒノミヤの求めていたものとは違うが、予想し得たものでもある。冗談で済まされた方が、余計に苛立ちも増す。
 だから返された答えに肯定を示して、しっかりと重ねられた唇を受け入れる。閉ざした唇を舐め上げる舌を迎え入れようと思ったのは、探求心に似た好奇心のせいだ。
 緩やかに舌を擦り合わせ、不意に胸元に走った疼痛にヒノミヤは閉じていた目を見開かせた。タンクトップ越しに指先で乳首を捉えたまま、同じように目を開けた皆本が微笑む。
 ヒノミヤが何をするより先に――何をしたかったのかも分からないが、舌を吸われ、乳首を摘み上げられると喉元から押し出すように声を洩らしていた。抵抗の気配を感じたのか、手首を押さえつけていた皆本の手にぐっと力が籠もる。
「ここ……弱いのか」
 舌が解かれると同時に再び顔を背けたヒノミヤの耳元で、皆本が囁く。低く抑えられているからかその吐息がくすぐったく、首を竦めるとべろり、と耳を舐め上げられた。
「い、きなり触られたら誰だって驚くだろっ」
「それもそうか」
 すんなりとヒノミヤの言葉を受け入れる皆本に、つい呆れた眼差しを送ってしまう。視線に気付いた皆本が不愉快そうな顔を見せるのに、ヒノミヤはなんでもないと緩く首を振った。そして器用に身体を下へと滑らせると、皆本の胸元あたりに顔を埋める。
 驚いて、身体を起こそうとする皆本に、ヒノミヤは自由を得た手を背中に回して抱き寄せると胸元を大胆に舐め上げた。舌に感じるのはシャツの味気ないものだが、びく、と頭上で揺れ動いた身体に満足に笑む。
「ここが弱いのか?」
 ヒノミヤの意趣返しに気付いたか、皆本から本気の抵抗が背中に回した腕に伝わってくる。だが、ヒノミヤは舐め上げた時に見つけた違和感を集中して舌で責める。唾液に濡れたシャツが肌に張りつき、尖り始める乳首が視認出来た。
 口に含み、歯を立てるとヒノミヤの上で皆本が悶えた。
「感じるみたいだな」
「このっ……」
 楽しげな声音を聞き取って、皆本の口から悔しげな声が吐き出される。
 どう反撃に出るのか、それも逆に仕返してやろうとヒノミヤは皆本の乳首を責めながら次の動きを待った。身体を支えていた皆本の手がベッドから離れ、ヒノミヤの脇腹を撫でる。軽く、身を捩ったヒノミヤに皆本が小さく吐息を零して、その手がタンクトップの中へと忍び込んでくる。
 手が上へ上へと、肌を撫で回しながら這い上がり、肌が曝け出されていく。ヒノミヤの与える刺激に皆本の手は僅かに動きを止めながらも、胸元まで曝すことに成功する。
「ヒノミヤ」
 震えるような声で名を呼ばれ、ヒノミヤは怪訝に顔を上げた。そして無意識に詰めた息を、そっと吐き出す。普段は性など感じさせない、生真面目さ特有の潔癖な雰囲気すら漂わせていたのに、今の皆本からは強い情欲が感じられる。ぎらつき滾るような卑しさはない、けれど見るだけで煽られるような直向な渇欲。
 幼子が一心にそれだけを求めるような、純真さすら窺わせる欲求。
 それは本来持ち得た気質なのか、それとも慣らされた結果であるのか。
 喉の渇きに唾を飲み込む。ヒノミヤが皆本から視線を逸らそうと顔を動かすと、低くそれを咎められた。重ねられた唇の隙間から深い息が零れ、舌先が触れ合うと、そのまま擦り合わせていた。ふざけ合っているような感覚で、だが身体の奥から込み上げてくるそれは、冗談では済ませられない。
 間近で見詰め合う熱を帯びた眼差しに、どちらからともなく手を伸ばす。シャツ越しの胸元にぺたり、と手のひらを這わせると、ヒノミヤは指をボタンにかけた。その間に、皆本が直にヒノミヤの乳首に触れて、軽く摘み上げられる。
 指先で弄ぶようにそこばかりを責められ、次第にそこから痛みとも快楽とも呼べるものが広がり始める。ボタンを外す手は止まっていた。それが悔しく、咥内で蠢く舌を追いかけてみるが、絡め取られてきつく吸われる。欲望へと直結した疼きに、指先が縋るようにシャツを握る。
「脱がせてくれないのか?」
 しっとりと濡れた声に、びくり、とヒノミヤの肩が揺れ動いた。睨むように見上げても、ただ熱の籠もった眼差しに見つめ返される。挑発されているのか、誘惑されているのか。
 不思議な表情だ。
「……焦るなよ」
 あえて強気に言い放つと、微かに目を見開かせた皆本が静かに微笑む。
 胸元を撫で、乳首を掠めていく指先にヒノミヤが小さく身体を揺らすと、額に押し当てるように唇が寄せられた。頬を滑り、口唇に触れることは避けるように、その端に唇を押しつけられる。
 子供だましのようなようなそれにヒノミヤが皆本を見上げれば、顔に不満なものでも浮かんでいたのか、おかしそうに唇が歪んだ。
「焦るなよ」
 ――仕返し、だ。
 皆本の唇が音もなく動く。
 いつの間にか慣らされていたことにも、思わぬ反撃にも、ヒノミヤは一瞬言葉を失っていた。たまらず八つ当たりめいた感情が込み上げてくるが、胸の奥で熾された欲情は既に容易には消せないほどに強く育っている。
 だが、自らそれをねだるのはどうも癪然としなかった。それは男であるプライドであったのかもしれないし、皆本にねだらせたかったからかもしれない。
 ヒノミヤが不敵に、笑みを浮かべると皆本は虚をつかれたように無防備な顔を晒した。その隙を見逃さずに、ヒノミヤは身体の上下を入れ替える。
「うわっ」
 驚いた声を上げる皆本をベッドに組み敷いて、ヒノミヤはスラックスからシャツを引き抜くと全てのボタンを外していく。肌を晒させると、皆本が目元を紅潮させて睨みつけてくる。
 その顔が強がっているようにも見えて、ヒノミヤは思わずと笑みを零した。眼光を鋭くさせる皆本に謝罪とも取れない口先だけの謝罪をして、皆本にそうされたように、乳首を弄る。
 皆本がそれにどこまで感じているのか、ヒノミヤには感じ取ることしかできないが、荒くなり始める呼吸は不快に感じてのものではないだろう。肌も火照り、か細く洩れる声に中てられる。
 羞恥に顔を隠すようにシーツに片頬を押し付ける皆本を振り向かせて、口を塞ぐ。感じた抵抗も一瞬だけ。すぐに舌を絡めて、擦り付けてくる。力なく投げ出されていた腕が背中に回されても、ヒノミヤはそれを心地よく感じただけだった。
「ん…ふ……っ」
 口を塞がれたまま、皆本が深く息を吐き出す。背中に回された手のひらが、服をたくし上げて素肌を撫で回す。ぞくりと肌が粟立つ感覚にヒノミヤはぶるり、と身体を震わせた。
 その身体の震えを感じて、舌を絡めたままの皆本が笑う気配が伝わってくる。指先で弄っていた乳首を弾けば、背中に鈍い痛みが走った。重ねていた唇を振り払って、皆本は喉元を晒して熱の籠もった吐息を空気に溶かす。
 蛍光灯の下に晒されたその喉元が、ヒノミヤには妙に白く、艶めかしく映っていた。ヒノミヤが誘われるように、皆本の喉元に舌を這わせて皮膚を吸い上げる。びくり、と震え、皆本が緊張するように身体を強張らせる。背中に爪立てる指先にすら情を抱き始めるのだから、妙な気分だ。
「なぁ」
「……なんだ?」
 顔を上げると、億劫そうに視線が合わせられる。熱に潤んだ双眸はレンズ越しに見つめているというのに、吸い寄せられる。当然とばかりに唇を重ねると、すんなりと受け止められた。背中に回っていた腕が離れ、髪に指を差し込んで掻き回される。
 音を立てるようにキスを繰り返すと、楽しそうに返される。髪を掻き混ぜる指といい、皆本の反応はじゃれついてくるものを愛でている、というような感覚が否めない。
 あしらわれているわけではないだろうが、本気になり始める欲望はそれだけでは満足しない。
 耳に唇を押し当てると、皆本が深く息を吐き出した。
「どうせ触るんなら、もっと別のモン触ってくれよ」
 言いながら、ヒノミヤは皆本の腰を抱き寄せ密着させる。互いの膨らんだ欲望が擦れ合い、息が弾んだ。
「触って下さい、だろう?」
「るせぇよ」
 胸を大きく上下にさせて勝ち気に嘯く皆本を一蹴して、ヒノミヤは更に股間を押し付ける。短く息を呑んだ皆本に満足してヒノミヤは身体を起こし、首裏が強く引き寄せられた。
 顔をぶつけるような勢いで引き寄せられ、ヒノミヤは咄嗟にベッドに手をついて静止をかけた。文句を言うために開いた口の中にしなやかに舌が侵入し、口腔深くの粘膜を舐っていく。
「んんっ」
 目を見開いて、ヒノミヤは身体を捩って離れようとしたが、しっかりと首裏を捉えられて離れることが出来ない。皆本は片腕でヒノミヤを捕らえたまま、空いた手を胸元に這わせ、ゆっくりと下へと伸ばしていく。
 絡め取られた舌が口の外へと引きずり出されると、皆本の口に含まれた。ぞく、と痺れるような感覚にヒノミヤが無意識に腰を引かせれば、下肢へと伸びていた手が脇腹を撫でて逃げた腰を引き戻す。含まれた口の中で舌が甘噛みされ、強く吸引される。
 たまらず、身体を強張らせたヒノミヤに更に追い打ちをかけるように、足が割られ股間を緩く突き上げられた。呻きを洩らしたヒノミヤを気遣うように唇が離れ、大きく息を吸い込むとまた重ねられる。
 今度はヒノミヤも、積極的に舌を絡めた。
 煽り、煽られて、競うように前を寛げ合う。欲望を晒す羞恥はあっても、抵抗はなかった。指を絡めると、それが手のひらの中で熱く脈打つ。すぐに真似るように自分のそれにも指が絡み、熱を帯びた吐息が混ざった。
「あ、んんぅっ」
 洩らした声はどちらのものなのか。
 皆本の腕に引かれるまま、ヒノミヤは腕を崩して身体を横たえさせた。どちらからともなく脚を絡ませて、欲望を擦り付け合う。恥も外聞もない、いやらしい行いをしていると頭のどこかでは理解するが、今は気持ちよくなることに感情が先走る。
 自分一人ではなく、目の前に同じように乱れる者がいるせいなのか、そのハードルは低い。そう感じているのは皆本も同じであるのか、触れ合った剥き出しの欲望が熱く昂っていく。
 そのうちに、粘着質な水を掻き混ぜるような音が響き始めた。
「あっ、うぅっ」
 先端から溢れる雫を塗り付けるように、互いの指が絡む。自分の手が触れるものが、自分のものか相手のものかもわからなくなっていた。
 頬を撫ぜる吐息に手探りで探るように唇を触れ合わせ、深く貪る。舌を擦り付けてひたすらに求めていると、不意に、頭を撫でられた。いつの間にか、頭上に影が落ちている。
 舌を解いて視線を上げ、小さく息を呑む。同時に、皆本からも似たような声が聞こえていた。
「ああ、邪魔しちゃった? 気にせず続けてくれたまえよ」
 艶やかな笑みを浮かべてそう告げる第三者に、ヒノミヤはそれまで追いやっていた羞恥を取り戻したかのように頬を茹でらせた。全身の緊張が指先にまで伝わってしまったのか、短く悲鳴を上げた皆本に慌てて欲望から手を離す。
 睨み付けてくる目にヒノミヤが情けなく眉を下げれば、仕方ないというように皆本は溜息を吐き出した。そして闖入者たる兵部を睨み上げる。
「邪魔した自覚があるなら入ってくるな」
 皆本の吐き出した文句は、怒っていると言うよりも拗ねているというニュアンスが近い。唾液に濡れた唇を軽く尖らせて、兵部に見せつけるように皆本はヒノミヤに身体を寄り添わせる。
 そんな態度にとばっちりを受けるような心境に駆られるが、寸前までの熱は当然ながらすぐには消えない。その熱を逃がさないように――拗ねた皆本に乗ればどうなるかと好奇心が頭を擡げて、ヒノミヤは拗ねた唇に吸いついた。
 驚いたように皆本が身体を揺らしたが、拒まれることなく受け止められた。むしろ嬉々としたように舌が絡んでくる。
 皆本と舌を絡めながら、ヒノミヤは視線だけを動かして兵部を見遣った。そこにあったのは涼しげな、じゃれあう二人を微笑ましく見つめる眼差しだ。間違っても嫉妬に駆られた男の浮かべる表情などではない。
 それを知れば途端ばからしくもなってくるが、ならばどうすれば一泡吹かせることができるのかと、思考がそちらへと移行する。一番効果的に思えるのは、ヒノミヤが皆本を抱くことか。そこに興味がないわけでもない。
 だがヒノミヤが動くよりも、皆本の方が動きは先だった。――ただし、ヒノミヤとは逆の思惑をもって、だったが。
 ヒノミヤが尻を撫でられたと感じた次の瞬間には、その奥に濡れた何かが押しこねるように触れていた。それが皆本の指で、内奥を広げようとしているのだと気付いても、えも言われぬ違和感に動きが止まる。
「ちょ、マジっ……!」
「冗談でこんなことするわけないだろ。そんなことより力を抜け。指が入らない」
 言葉通り、冗談を言っている風ではない皆本に、ヒノミヤは絶句した後大きく息を吐き、身体の力を抜いた。奇妙な違和感を感じながら、ヒノミヤも手を伸ばして皆本のそこに触れる。汗にしっとりと濡れていたそこは、ヒノミヤの指先を浅く咥え込んだ。
「――っ」
 皆本の指が、ヒノミヤの中で跳ねる。中へと侵入したままだった指が加減なく粘膜を押し上げて、ヒノミヤはたまらず息を詰まらせた。そんなヒノミヤを宥めるように唇が重ねられ、縋るように舌を擦り付けていた。
 身体の中で浅く指が出入りを繰り返し、ヒノミヤは小さく喘ぐように呼吸を繰り返した。たまらなさに身を捩り、触れ合った欲望がもどかしい刺激を生み出す。少しずつ、奥を目指していく指を感じながらヒノミヤもそっと指を動かし、きつく締め付けてくる肉を掻き分けた。
「くぅ――っ、は、あっ」
「…ん、うっ……」
 無防備に相手の愛撫に身を任せる一方で、相手をもっと乱れさせようと夢中となったように指を動かす。倒錯としているようで、ただ単純に二人ともが同じ立場で快楽を求めあう。
 ヒノミヤは肩で圧し掛かるように皆本の身体を倒すと、胸元に顔を埋めて乳首を舐め上げた。吸い付き、舌で舐め上げると内奥の粘膜がうねりを見せる。きつくヒノミヤの指を締め付けて、皆本が声を上げる。
 脚を割る太腿で欲望を擦り上げれば、そこにびくびくと震える熱が伝わってきた。
「すげ、締め付けすぎ――ぅあっ」
 感嘆と言葉を洩らしたヒノミヤが、その語尾を上擦らせる。いつのまにか増やされていた指が、しっかりとヒノミヤを突き上げていた。
 皆本が背をしならせて悶えたヒノミヤと身体の位置を入れ替えて、深く奥を弄る。荒い呼吸が首筋を撫でて、乳首を強く吸引される。硬く、熱く滾った欲望を手に扱かれると、声を抑えることは出来なかった。
「キミの中も、熱くうねって、ヒクついている。腰も揺れているな」
 皆本の声にすら反応するように、ヒノミヤのそこがきつく締まる。指先が熱い粘膜に包み込まれ、ぐいぐいと奥へ誘っているようだ。
 決定的なものはなくもどかしく続く快感に息を弾ませて、互いに高め合い、煽り続ける。妖しさを帯びた瞳は快楽に蕩け、その奥に切れかけた理性をちらつかせていた。その瞳を見つめ、口付けを交わしていると、不意に皆本が声を洩らした。
 何かを耐えるように身体を震わせる皆本を不思議に見上げていると、その原因はすぐに分かった。
「あうっ……」
 ヒノミヤの口からも、皆本と同じように声が洩れる。――兵部の指が、すっかりと熱く反り返った欲望に絡み付いていた。先端を押しこねるように指の腹でくすぐられ、身体が戦慄く。皆本はそれを耐えていたのだ。
「そろそろ僕も混ぜてくれない?」
 そう言いながら、ヒノミヤが掻き混ぜていたその内奥に兵部の指が捻じ込まれた。ヒノミヤの指を絡め取り、あっさりと主導を得て粘膜を擦り上げる。
 皆本はヒノミヤの胸に片手をついて身体を支えていたが、弱いところでも突かれたのか、一際甘く喘ぎを迸らせて、身体をくねらせた。乱れた呼吸を響かせて、小さく頭を振る。柔らかな毛先がヒノミヤを撫で、思わず身体を震わせると、皆本がゆっくりと俯けていた顔を持ち上げた。
 濡れた瞳と視線が絡み、どちらからともなく唇を触れ合わせる。一瞬だけ舌を絡めて顔を離すと、ヒノミヤの足が皆本に抱えられていた。それまで指を咥えていた入り口には、熱い昂りを感じる。
 今更、否の答えを出すつもりはない。
 ヒノミヤが浅く頷いて促すと、ゆっくりと、皆本の昂りが内奥を広げていく。馴染ませるように腰を揺らしながら熱が打たれ、腰が密着する。身を屈めた皆本がキスをしようとしてくるのを受け止めて、いきなりその身体が上へと揺さ振られ、ヒノミヤは慌てて抱き締める。
 硬く、身体を緊張させて熱を脈打たせる皆本の背中の向こうで、兵部が意地の悪い笑みを見せていた。ヒノミヤの強い視線に気付いた兵部が軽く身体を揺らすと、つられて皆本の身体が動く。――更に、皆本と繋がり合ったヒノミヤまでも。
 それで悟る。皆本もまた、ヒノミヤのように兵部の欲望をその身体に受け入れているのだ。
「……大丈夫か?」
 詰めた息をゆっくりと吐き出して、ヒノミヤは皆本へと声を掛けた。顔にかかる髪をかき上げて、撫でてやると皆本は気持ち良さそうに目を細めた。
「へ、きだ……」
 浅く息を吐き出して、皆本は背後を振り返り兵部を睨み付けた。兵部はそれを飄然とした笑みで受け流す。
 前後に刺激を受ける皆本の欲望は、ヒノミヤの中で熱く脈打っていた。息遣いも荒く、滴る声は切なさを感じさせる。
 ヒノミヤは重い腕を持ち上げると、皆本の首裏を引き寄せ、振り向いたその顔に口付けた。身体の内奥で皆本が強く脈を打つ。その熱に煽られてヒノミヤが粘膜を蠕動させれば、皆本が緩やかに腰を動かし始めた。
「あ、くぅ……んっ」
 内奥で息衝いていた熱が引き抜かれ、慎重に奥を穿つ。粘膜を擦り上げる熱が出入りを繰り返し、じわじわと体中に愉悦が広がっていく。内奥深くを抉るように突き上げられると、ヒノミヤは背をしならせて喘いでいた。
「気持ち、いいか?」
 訊ねてくる声がくすぐったく、ヒノミヤは首を竦めて皆本と唇を触れ合わせた。
「すげ……、たまんねぇ」
「僕もだ」
 小さく笑いあって、夢中で舌を絡める。何度繰り返しても、何度でも求めたくなってしまう。
 ヒノミヤを犯す一方で、皆本も犯される快感を味わっていた。それでも、皆本が動くのなら自分は動く必要はないとばかりに、兵部は思い出したように腰を揺らすだけだ。皆本がヒノミヤを犯せば、皆本は兵部に犯される。
 犯す側と犯される側、ふたつの異なる愉悦に苛まれながらも、皆本は次第にそれを柔軟に受け入れ始めていた。与えられただけの欲望にもどかしさも感じるが、それと同じくらいに昴りを包み込むヒノミヤの中は気持ちがいい。じゃれるように触れ合うのも癖になりそうだ。
「少しは僕も仲間に入れてあげようっていう気にならないのかね、キミ達は」
 呆れるように、楽しそうに兵部が呟いて、ヒノミヤと口付けを交わしていた皆本の顎を掴んだ。無理矢理顔を離された二人が、揃って不機嫌な顔を見せる。
 口を開いたのは皆本だ。
「なんだ、仲間外れで妬いたのか、おじーちゃん」
 皆本の強気なその言葉にヒノミヤは軽く目を剥くが、兵部はおかしそうに喉を鳴らして笑うだけだ。
「玩具同士が仲良くじゃれてるだけなのに、それを愛ではしても妬く必要なんてないだろ?」
「誰が玩具だ、誰が――」
 皆本の抗議は最後まで上げられることなく、兵部に口を塞がれる。深く唇を重ねて、時折その隙間から舌同士が絡み合っているのがヒノミヤには見えた。喘ぐような声が皆本の口からくぐもって響き、しっかりとヒノミヤの内奥まで挿入された昴りがビクビクと脈打っている。
 それを内奥で締め付けながら、ヒノミヤは手を伸ばしてかたく尖った乳首に触れた。ビク、と兵部と舌を絡めたまま身体を揺らした皆本に小さく笑って、ゆったりと胸を撫でる。
「っは、ぁ……っ」
 たまらず身体をくねらせた皆本に、兵部が口を離す。皆本は何かを求めるように口の外に引き出された舌を蠢かせたが、ヒノミヤが唇を重ねると満足そうに吐息を洩らして今度はヒノミヤとの口付けを楽しんだ。
 その後ヒノミヤは兵部とも舌を絡め合って、しなだれかかってくる皆本の身体を受け止めた。単純にヒノミヤの二倍の快楽を得ているのだから、とうに限界は近かったのだろう。
「あっ、ああっ」
「く…っ、ぅんっ」
 兵部が皆本を攻めれば、それが皆本を介してヒノミヤにも伝わってくる。突き動かされる皆本の腰が、深く繋がったヒノミヤも巻き込む。硬く張り詰めた皆本の昴りが兵部に促されるままに遠慮なく粘膜を擦り、痙攣する内奥を抉じ開けていく。
 どうしようもないその官能に溺れてしまわないようにヒノミヤと皆本は指を絡めて握り締め、零す喘ぎを口付けにくぐもらせた。
「あ、くぅうっ」
 不意に皆本の身体が上に伸び上がるようにしなり、ヒノミヤは快楽に酔い痴れるように閉じていた瞼を持ち上げた。皆本の耳元で、兵部が何かを囁く。小さな声はヒノミヤには聞き取れず、だが皆本が兵部に何かを唆されたのだとは分かる。
 妖艶な眼差しをヒノミヤへと向けて、皆本が腹の間で硬く反り返ったヒノミヤの昴りへと手を伸ばした。
「うっ……」
 手のひらに包み込むように握り締められ、上下に擦られる。荒い息を零しながら、皆本はヒノミヤを責め立てる。快楽に戦慄き、拙い愛撫だがそれでも今は十分だ。
 律動を再開させた兵部に操られるままに、ヒノミヤと皆本は深い官能に身を委ねた。しばらくと経たない内に二人の唇からは限界を訴える声が迸り、ヒノミヤは皆本の手の中へと、皆本はヒノミヤの中へと熱を吐き出した。
 迎えた絶頂に二人は緩やかに舌を絡めて余韻に浸り、しかし動きを止めない兵部に悲鳴を上げる。
「あっ、待てっ…」
「兵部っ、止め――!」
 上がる二つの制止も気にせずに兵部は唇を笑みに歪めて、腰を揺らした。皆本の身体が動き、ヒノミヤを揺り動かす。
「僕も気持ちよくしてくれよ。皆本クン、ヒノミヤ?」
 そう囁いて、兵部はまずは皆本と、次にヒノミヤと口付けを交わす。それに誤魔化されるわけではないが、熱く滾らされた欲望は一度だけでは満足しない。
 反論が上がらないのを肯定と取って、兵部が動き出す。
 再び煽られる欲望が、皆本の手の中で熱く育っていく。同時に己の中でも皆本の欲望が硬度を取り戻していくのを感じながら、ヒノミヤは皆本の唇に吸い付いた。
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