解き放たれる、無限の可能性

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  光と闇の虚構  

 荷物を詰め終え、ベッドへと腰掛ければ皆本の口からは自然と溜息が零れていた。
 昼間はとんだ式典となってしまった。
 会場で、兵部を見かけた瞬間から、嫌な予感はしていた。彼は、何の目的もなく行動を取ったりはしない。飄然としていながらもその行動には確固たる意味があり、だがそれは事が済んでから判明することが多い。
 皆本はいつも、それを追いかけ続けるだけ。後一歩で捕まえられない。そこに躊躇が生まれる。
 相手は犯罪者で野放しにしておくことは出来ないと言うのに、兵部は皆本には出来ない手段をもって、超能力者の抱える問題を解決しようとする。決してそれは褒められたものではないのに、そうすることでしか救えないものもあると、理解してしまう。
 罪は罪だ。
 どんな綺麗事で覆っても、世の中には犯してはならない罪がある。守らなければならない法がある。
 たとえそれが甘ったれた正論と謗られようと、無秩序でいられるわけがないだろう?
 誘拐された王女は、結果無傷だった。彼女自身も、パンドラを悪し様に表することはなかった。むしろ、庇う気配すら窺えた。
 王女とパンドラの間にどんなことがあったのかは皆本には分からない。兵部が何故、普通人である王女を守るような行動を取ったのかも、分からない。
「なんなんだ、一体……」
 この、荒れ狂うような感情は。
 靄の晴れない、わだかまるような思いは。
「おや、キミひとりかい?」
 不意に聞こえてきたその声に、皆本は泥沼へと沈みかける意識を一気に引き上げた。
 目を見開き、横たえていた身体を跳ね上げて、部屋を見渡す。――いつの間にか、そこには学生服に身を包んだ男が立っていた。
「――兵部ッ!」
「やあ皆本クン。お昼振り。随分安っぽい部屋に泊まってるんだね」
 部屋の調度品を眺めてそう嘯く兵部に、皆本は咄嗟に懐に手を差し込み、だがそこに目当てのものはないと気付き、顔を歪めた。兵部はそれに、おかしそうに喉を鳴らす。
「まったく血気盛んだね。いやいや、若いのはいいことだ」
「何の用だ、兵部!」
「そういきり立つなよ。昼間は碌な挨拶が出来なかったからわざわざ出向いてあげたんじゃないか」
 くすくすと、何の気負いもなく自然体であるように見せる兵部に、皆本も荒立つ感情を抑えて、肩の力を抜く。しかし、だからといって完全に警戒を解いたわけではない。
 兵部から意識は逸らさぬよう、空いた片側のベッドに視線を移して、同室者を思い浮かべる。
 折角の海外なのだからと、賢木は荷造りもそこそこに最上階にあるラウンジへと出掛けてしまった。すぐに戻ってくるだろうという楽観視は出来ないが、可能性はある。
 そう思考し再び兵部へと視線を戻した皆本に、兵部が見透かしたように笑う。
「残念ながらヤブ医者はしばらく戻ってこないだろうね」
 呆れるように肩を竦めつつ、兵部が囁く。
「賢木に何をした!?」
「別に何もしちゃいないさ。男女の仲を邪魔しようだなんて、野暮じゃないか」
 心外だ、と洩らす兵部に、皆本は反論もなく押し黙る。皆本も、今は仕事を離れたプライベートな時間であるから、賢木が何をしようと小言は挟まなかった。そんなことは分かっている。
 しかしそれとこれとは別だ。
 兵部の口振りから、賢木がどこで何をしているのか把握した上で、皆本が一人となった今、姿を現したのだろう。目の前に犯罪者が居て、しかも最前に誘拐を行った者が目の前に現れて、プライベートだなんだと言っている場合ではない。
 簡単に逃げられてしまうのだろうとの結末が見えていたとしても、見過ごすことは出来ない。
「何が狙いだったんだ」
 低く問いかける皆本に、兵部が胡乱な眼差しを送る。
「女王の暗殺を、どうしてお前らパンドラが阻止する必要があったんだ」
 パンドラの理念は普通人からの超能力者解放であり、今回の王女を救うという行動はその理念に反している。いくら一国の王女とはいえ、パンドラが守る理由はない。
 兵部が、普通人を守る理由など――。
「教えてやる義理はないね。僕らが何をしようと僕らの勝手だろう?」
「ふざけるなっ」
「ふざけてなんかいないさ」
 激昂を隠しもしない皆本に対して、兵部は涼しげな笑みを見せる。
 いつもそうだ。皆本一人が感情を露わにして、兵部はその本心を見せない。悟らせない。
「それに、あの時一緒にいたあの子が見せた力は――」
 言い募ろうとした皆本の言葉を、兵部の溜息が遮る。
「まったく、久し振りに会ったというのに……」
 小馬鹿にした口振りで呟いた兵部に、皆本は眦をつり上げて睨み上げた。だがその気丈さは、見下ろしてくる醒めた眼差しに怯みを見せる。
 一瞬、兵部の姿を見失った次の瞬間には力強く顎を捕まれ、覆い被さる兵部を見上げるように上向かされていた。
「夜は短い。キミの話は、僕の用を済ませながら聞いてやる」
 皆本の上げたかった抗議は、それを口にする前に兵部の唇に塞がれていた。


「っ、く、ン……ッ!」
 声を抑えようと引き結んだ唇から、切れ切れに息が零れる。たくし上げられ、晒した胸にあたたかい呼気と舌が這っていた。皆本がそれを嫌がり、身を捩ろうとすれば、力強い手のひらに身体を押さえつけられる。
 その力に抗えず、ただ込み上げてくる快感に身悶えると、宥めるように肌を撫で回された。撫でる指先が尖りを見せ始める乳首を掠め、あたたかい口内に含まれる。
「よせっ…、あ、くぅ……っ」
 口に含まれた乳首が熱い舌に舐ぶられ、容赦なく歯を立てられる。たまらず、シーツに縋りつく指に、ぐっと力が篭もった。
 ゾクゾクと背筋を撫で上げていく快感に、皆本の呼吸は乱れ始めていた。繋ぐ理性は官能に犯され、それでも屈しまいと抗っても、それ以上の力で捻じ伏せられる。
「相変わらずいやらしい身体をしているね、キミは」
「だ、まれ、へんた……んぅっ」
 皆本が吐こうとした悪態も、悪戯に乳首を掻く指に阻まれままならない。咄嗟に口噤んだ皆本に、兵部がおかしそうに笑いを零した。
「これだけ素直に反応させてるくせに、ほんと、こっちの口は素直じゃない」
 からかうように囁いて、上体を伸ばしてきた兵部に唇が塞がれ、舌が捻じ込まれた。粘膜を舐り、舌が擦り付けられる。首を振って解こうとしても、後ろ髪を鷲掴みにした手に動きを封じられる。
 散々に口腔を犯され、強く舌を吸引されるとたまらない疼きに腰が震えた。息が上がるほどのキスに、ようやく唇が離されると皆本は荒く呼吸を繰り返していた。
 胸を浅く、早く上下させ、整えようとする息が不意に詰まる。
「んぅ!」
 兵部の手のひらが、主張をし始める股間をきつく握り締めていた。反射的に、皆本は兵部の手を引き剥がそうと手を伸ばしたが、荒々しく揉みしだく手にただ縋るように、兵部を掴んでいた。
 痛むように熱を持ち始める陰茎に、意識がぐらぐらと官能に眩む。
 身体を火照らせ始める皆本を見下ろして、兵部は薄く唇に笑みを乗せると軽く己の唇を舐めた。
「さて、君の話は何だったかな」
 皆本の昴りを手のひらに弄びながら、兵部が嘯く。
 耳朶を舐め上げていく吐息に皆本は肩を竦ませて、兵部を睨み上げた。その目を見下ろして、兵部は嘲るような色を瞳に滲ませた。
「いいじゃないか、別に。王女は守られた。この国の反エスパー組織の尻尾を掴むこともできたんだから、メリットしかないだろう?」
「くっ……」
 兵部は皆本を快楽で嬲りながら、言葉でも追い込んでいく。
 今回の事件で、この国が損したことはない。だから、王女も必要以上にパンドラを追うことはさせなかった。このまま何事もなければ、皆本もそのまま日本に帰っていただろう。
「それで、お前に何のメリットがあったんだ」
 パンドラが動いたことによって、彼らが得たものは何であったのか。
 真っ直ぐに見上げてくる皆本に、兵部は緩く口角を持ち上げる。弄んでいたそれから手を離すと、皆本の口からは無意識に安堵するような吐息が零れていた。それに深く笑みを刻んで、兵部は皆本の下肢を曝け出させた。
 下着ごとズボンが取り払われ、皆本が快楽に鈍っていた身体を跳ね起こす前に、兵部が剥き出しの陰茎を握り締めた。手慰みのように与えられていた刺激に、皆本の陰茎はすっかりと身を起こし、その刀身を熱く滾らせていた。
「やっ、あっ、あぁっ」
 握り込んだものを手荒く扱く指に、皆本は身体をくねらせて悶えた。たまらなく洩らしてしまう声に顔に羞恥を滲ませ、ぞくぞくとせり上がってくる快感に抗いきれない。敏感な先端を容赦なく責められて、内腿がビクビクと震える。
 強い快感に腰が引けるのに、弱みを握られているせいで逃れることすら叶わない。
「そんなもの、あったとしてもキミに教えるわけないだろ? 皆本クン」
 恥辱を耐えながら、おかしそうに囁く兵部を睨み上げれば、それまでの荒々しさのない、あやすような手つきで陰茎を擦られる。滲む透明な雫を塗り込めるようにくすぐられ、皆本は戦慄く唇をきつく引き結んだ。そうでもしなければ、またこの官能に陥落するような声が零れていた。
 それを認めきれず、皆本が兵部を睨み上げるように見つめると、楽しげな笑い声が耳を打った。
「……何がおかしい」
「別に?」
 睨み付ける皆本をあしらって、兵部は脚を大きく広げさせるとその奥へと指を滑らせた。
「止せっ……」
 皆本が洩らした先走りに濡れていた指が、内奥を押し開こうと周囲を撫でる。揉み解すように指を動かしながら入り口が開かれ、指が押し込められる。瞬間、総毛立つような感覚が身体を走り、皆本は髪を振り乱して声を迸らせた。
 きつく締め付ける内奥を容赦なく抉られ、中で曲げられた指が粘膜を押し上げる。
「くぅっ……、あっ」
 出し入れを繰り返して粘膜を擦り上げる指に、腰が震える。縋るように掴んだシーツが軋んだ悲鳴を上げ、皆本は身体をしならせて震える吐息を吐いた。
「きついな。……だが、こっちは萎えていない」
 反り返ったものをからかうように呟かれて、皆本の顔が羞恥に染まる。それに兵部は薄く笑みを浮かべると、指を咥え込ませたまま、熱を冷まさないものを握り、扱いた。
「うあっ、…んぅ!」
 前からの刺激に腰を逃がそうとすれば、内奥に咥えた指に奥を擦られる。逃げようのない状況に身体を悶えさせ、雁字搦めに捉えていく快感に、ゾクゾクとした興奮を覚える。
 被虐的な思考が脳裡をちらつき、吐き出す息に熱が篭る。
 熱く脈打つ陰茎の先端を爪に強く掻かれ、皆本は大きく喉を晒して声を上げた。その喉元に兵部が喰らいつき、皮膚をかじるように撫でていく歯に、息が詰まる。
「――何に興奮している? 中もビクビク痙攣して、きつく締め付けてくる」
 楽しげな口振りに反抗心を刺激されるが、すぐに粘膜を押し上げるように指を蠢かされ、快楽に誤魔化される。次第にその快感がたまらなくなり、我知らず皆本が腰を揺らすと、バラバラに蠢く指に内奥を強く擦られる。
 首筋をきつく吸引する唇にすら吐息を震わせて、皆本は身に孕む官能に切なく眉を寄せた。愛撫とするには強引なその責め苦は、皆本の弱みを知り尽くしていた。
 どうすれば感じるのか。
 何をしてやれば、その身を淫らに蕩かすのか。
「じっくりとまた、相手をしてやりたいのは山々だけど、いつヤブ医者が帰ってくるか分からないからね」
 震える耳朶を舐め上げ、笑みを含んだ声で囁いた兵部に、皆本の中にハッと理性が蘇る。我に返り、今更のように暴れだした皆本を押さえつけて、兵部は内奥を弄っていた指を引き抜いた。
 そうして暴れる腰が抱え直され、綻んだその場所に触れる、熱い昂り。
 逃げを打った腰はあっさりと捕らえられ、兵部が侵入を開始する。狭いそこを押し広げるように熱が捻じ込まれ、緩く腰を揺らしながら太い部分を呑み込まされる。繋がろうとする部分から込み上げてくる衝撃を皆本は息を殺して耐え、だが痛みに喉元から呻きがせり上がってくる。
「息をしろ、バカ」
 そう詰る兵部の声も何かを耐えているようであり、皆本が薄く開いた視界には僅かに顔を顰めさせた兵部の姿が映り込んでいた。
 視線が絡むと、次の瞬間には唇が塞がれ、舌を絡めていた。
 皆本は舌を絡めたまま深く息を洩らし、身体の緊張を解くように昂りを扱く手のひらに身震いを起こす。内奥に感じる昂りの熱さに、興奮が鎮まらない。脳裡には親友の存在がちらついているのに、この熱から醒めてしまうことを惜しいとも感じ始めている。
 ――それでも。
「や、めろっ……」
 内奥を突き上げられ、声を上げながら、皆本は兵部に――兵部の与えてくる快楽に、抗う。
 少しでも快楽を逃そうと腰を浮かし、押さえ込む腕に爪立てる。
 白けた、呆れた顔をする兵部を皆本は意地になったように睨み上げ、繋がりを解こうと試みる。だが爪立てる腕は一纏めに頭上に縫い付けられ、内奥を容赦なく突き上げられる。
「煽るならもっと上手に煽りなよ」
「誰が煽ってなんか……っ」
「こんな優しいのじゃ物足りなくて、もっと酷くして欲しいんだろ?」
「ちがっ、――あっ、ああっ」
 強い快楽にずり上がる腰を押さえ付けられて、内奥深くを抉るように昂りに何度となく貫かれる。時折深く貫いたまま身体を揺すられて、そこからゾクゾクとした疼きが広がっていく。
 首を振り、皆本はそれらを否定するが、反り返ったままの陰茎からははしたなく透明な雫が滴り落ち、下肢を濡らしていた。それは何よりも、快楽を享受している証だった。
 拒みながらも快楽に屈服させられる身体に、思考に、皆本はやるせなく息を震わせた。背徳は何物にも変えがたい甘美さを味わわせる。生真面目に生きようとする精神を持つ皆本には、尚更に。たとえるならば兵部は、かつて楽園に住まうイヴを唆して禁断の果実を与えた、白蛇か。白蛇の囁く誘惑の言葉に抗うことは出来ず、唆されるままに堕ちていく。
 内奥を突かれながら胸元を熱い吐息に撫でられ、硬く尖った乳首を口に含まれると、皆本は小さく悦びの声を上げて兵部を締め付けた。舌に舐られる乳首が疼痛を孕み、立てられる歯に欲望が疼く。
「あうっ、うっ、――んあっ」
 暴力的に与えられる快感でも、皆本はそれに身体を昂らせる。的確に弱みが甚振られ、加減など与えられなくても、皆本の身体は柔軟にそれを受け入れていた。
 皆本が始めから精神に被虐性を秘めていたのか、それまでの兵部との関係で植えつけられたのか。そのどちらであったとしても、皆本が兵部とのセックスに馴染んでいるのは、紛れもない事実だった。
「は、ああっ、……くぅっ」
 身体を突き上げるように内奥深くまでを貫かれ、皆本はビクビクと身体を震わせた。蠕動する粘膜が、きつく兵部に絡み付く。
「もう限界かい?」
 痙攣するように震える内奥をしっかりと埋め込まれた昂りで掻き混ぜられ、鎮まらない愉悦に皆本が喘ぐ。それでも首を左右に振ったのは、意地でしかない。簡単に屈して堪るかと、ただそれだけ。
 そんな皆本のつまらないプライドに兵部は面白くなさそうに鼻を鳴らし、繋がった身体を揺らした。もどかしそうに震える皆本の熱から透明な雫が滴り、その先端を兵部が指の腹で優しく撫でる。きつくなる締め付けは、絶頂への渇望は皆本が一番自覚しているもののはずなのに、皆本は歯を食い縛ってそれを耐える。
 そんなものに意味はないと、とうに分かりきっているのに。
「イきたくないなら、仕方ないね」
 喉を鳴らして兵部が嘯き、先端を撫で擦っていた指が根元に絡み付く。強く戒められて皆本が呻き声を洩らすが、腰を動かし始めた兵部に、その声には愉悦の色が混ざりだす。
「ひ、ああっ、うぅ…っ」
 限界を迎えそうなものを塞き止められたまま与えられる官能が、たまらなく皆本に声を上げさせる。敏感となった粘膜を熱く逞しいもので擦り上げられると、総身が震えるような快美さが皆本を満たしていく。
 そうして只管に快感で嬲られることに、甘い眩暈がする。
「あっ、ああっ」
 出したいのに、出せない。
 解放を許されない欲望が出口を求めて身体の中で暴れ、肥大する欲求にわけもわからず泣きたくなる。痛みを覚えるほど張り詰めた欲は兵部に押さえつけられたまま、歓喜の雫を零し続ける。
「ああ、そういえば」
 熱く震える欲望をからかうように撫でて、兵部が思い出したように口を開く。
 快楽に亡羊とし始める瞳で皆本が兵部を見上げれば、意地の悪い笑みがそこに浮かんだ。
「他にも何か僕に聞こうとしていたね。もういいのかい?」
 それがほんの少し前のやり取りを示したものだと、皆本はすぐには気付けなかった。やり取りを思い出して、皆本の顔に憤りが滲む。
 しかしそれを口にすることが出来ない。
 このやり取りの間ですら、皆本を嬲ることをやめない兵部に、思考がままならない。掴み取った次の瞬間には、それは快楽に塗り潰されていた。
「ひ、きょう――だ」
 精々が、上擦る声でそう詰るだけ。
 だが兵部はそれを飄然として受け流す。
「卑怯? 僕はキミが忘れていそうだったからわざわざ思い出させてあげたんじゃないか。感謝こそすれ、詰られる覚えはないんだけど」
 睨み据えてくる眼差しすら笑みでいなして、兵部は皆本の腰を引き寄せ、深く突き上げた。
 背をしならせて皆本は悶えるのに、いつまでも絶頂感は訪れない。絞り取るように収縮する粘膜を昂りに抉じ開けられ、息が止まるほどの官能に酔い痴れる。
「――ま、今日は久し振りの再会だったんだ。昼間の頑張りのご褒美としておこうか」
 そう囁かれた次の瞬間には力強く身体が揺さ振られ、何度目かの突き上げで、皆本は身体の中に熱い迸りが流れ込んでくるのを感じていた。腰を震わせて皆本は兵部の吐き出す精を受け止め、擦り上げられる昂ぶりから自らも熱を放っていた。

□ ■ □

「おーい、皆本ー?」
 どこか遠く、聞こえてくる声に沈んでいた意識が浮上する。
 ハッと目を見開かせて皆本は身体を起こし辺りを見渡すが、そこは何の変哲もない、ホテルの一室だ。視線を下げて己の身体を確認するが衣服に乱れはなく、異変も見られない。
「寝惚けてんのかー? 皆本くーん」
 心配するように声を掛けてくる賢木とようやく目を合わせて、皆本は情けなく眉を下げる。
「ああいや……、うん。そうかも」
「おいおいなんだよ。時差ボケには早すぎんだろ」
 賢木の突っ込みに皆本は苦笑いを返して、こっそりと息を吐き出す。
 あれは――兵部との一件は、夢ではない。身綺麗にはされているが、身体の中、内奥に兵部に吐き出された名残を感じる。
 記憶の一片を辿れば明確に蘇らせることのできる疼きに身体を震わせて、皆本は深く息を吐き出した。

 わだかまるような靄は、いつの間にか晴れていた。
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