解き放たれる、無限の可能性

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 軽快にノックの音を響かせ、中から洩れ聞こえてきた返事に、扉を押し開く。
「失礼します――」
 部屋に入れば、己の到着を待ち構えるように、机の上で手を組み、こちらを見つめていた。その、射るように冷淡とした眼差しにたじろぎかけながらも、後ろ手に扉を閉め、背筋を伸ばす。
「アンディ・ヒノミヤ、参りました」
「ご苦労。――次の任務だ」
 口上も短く、早速とばかりにデスクの引き出しから何かを取り出した上官に、アンディはそれと悟られることのないように軽く眉を顰めた。
 だが、湧き募る不平不満をここで吐いても仕方なく――上司に労われたかったわけでもなく、アンディはデスクの上に滑らされたそれを確認すべく、足を進めた。
 そこにあったのは、一枚の写真。
 どこぞの諜報員が撮影してきたのか、標的の視線はずれた隠し撮り写真だ。
 映っていたのは
「――子供?」
 肩ほどまでに伸ばされた白銀の髪と、それとは対照的な黒の服。何かの折に知ったそれは、日本で学生服と呼ばれる者ではなかっただろうか。十三歳から十八歳までの学生が着用を義務付けられた、制服だ。
 一体この子供がどうしたのかと、怪訝さを隠さずに上官を見遣れば、男の喉が低く震えた。
 零されたおかしげな笑いに、アンディは目を丸くして首を捻る。
「君も知っているだろう。非合法国際超能力結社――P.A.N.D.R.A」
 普通人からの超能力者解放を謳い、各地で普通人組織を悉く壊滅に追い遣る、犯罪者集団。
 そのリーダーの名は世界に知れたものの、その本拠地、構成員、あらゆるものにおいて未だ解明し切れてはいない、謎の組織。
 一時期は日本を中心として派手な活動を見せていたのだが、何があったのか、現在は海外で多く活動の痕跡が見られている。
「それで、そのパンドラとこの子供とが何か関係してるんですか?」
 背筋に伝う冷や汗を表面には浮かばせないようにと抑えて、アンディは軽い口振りで口を開いた。
 脳裏では、まさかと過ぎるものがないわけではない。
 引き攣りそうになる頬をそれでも、皮肉るような笑みに変えて上官を見つめ続けていれば、アランはそれら全てを見透かしたように、笑いを零した。
「彼がそのリーダー・兵部京介だ」
「!?」
「君には彼の組織、パンドラに潜入してもらう」
 アンディの動揺も意に介さず、アランはそう告げると試すようにアンディを見上げた。
 今度こそポーカーフェイスを保つことを忘れたその顔は、苦虫を噛み潰したように苦渋に満ちていた。
「返事は?」
 その戸惑いも躊躇いも知り尽くして、アランは更にアンディを追い詰める。
 アンディは苛立ちとも近いそれを舌打ちで弾き飛ばし、姿勢を正す。
「はっ。了解致しました」
「よろしい」
 満足に頷くアランの顔を、アンディは敬礼のため掲げた手の下で苦く見つめた。
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