目次

  月のない夜  

 それまで詰めていたような息を深く吐き出して、皆本はゆっくりと瞼を持ち上げた。ついさっき眠ったばかりの気もするが、長い時間熟睡していたような感覚もある。
 もう起きなければならない時間なのかと考えてみても、見渡す部屋は仄暗い。時間を確認しようとサイドテーブルに置いた携帯に手を伸ばし、その腕が背後から伸びてきた手に掴まれた。
 背中にはかたい体の感触があった。耳元ではゆっくりとした静かな息遣いを感じる。
 皆本は瞬きを数回繰り返して、寝ぼけた頭を覚醒させた。伸ばした腕をベッドへと引き戻す手に合わせるように、体の向きを変える。
 体に遅れて顔を振り向かせると、そこには皆本と同じく寝起きとは思えないまっすぐな意志を感じさせる眼差しがあった。深く息を吐き出して体を脱力させた皆本の唇が、そっと啄まれる。
「んっ、ひょう――」
 口の中で呟いた声を吸われる。
 腕を掴んでいた手がシーツの中に潜り込み、二人の間にある隙間を埋めようと皆本の腰を強く引き寄せる。皆本がその腕の強さにたまらず身じろぐと、吸いながら離れた唇が微かに笑った。
 触れ合う素足に今更のような羞恥を覚え、皆本は胸に手をついて押し返した。しかしそれはただ皆本の上体が後ろに反っただけで、すぐに腰を抱く手が背中に回り、抱き寄せられる。
「まだ起きるには早い」
 耳元で聞こえてくる声に、皆本は顔を伏せたままくすぐったく身を捩らせた。そしてそのまま、皆本が返事もできずにいると兵部が小さく体を揺らして笑い声を洩らす。
 腰へと降りてきた腕に強く体を抱かれ、猥褻な手のひらが尻を撫で始める。
「んっ、やめっ……」
 かたく強張る尻を揉み、指が狭間へと滑り込む。悪戯な指先にぷっくりと腫れたそこを弄られると、皆本は体を戦慄かせて弱々しい声を上げていた。
「まだ柔らかいな。熱く熟れたまま、蕩けるのも早い」
「あ、だめ――」
 指をいきなり突き入れられ、二本の指にかき混ぜられる。挿入時に痛みを感じることもなく兵部の指を受け入れた内奥は、嬉々として粘膜を蠢かせて指を締め付ける。
 静寂の中で響く卑猥に濡れた水音に、皆本はたまらない羞恥を覚えていた。
「やめ、……起きるには早いって、お前が――」
 あられもない声が飛び出しそうで、小さく押さえた皆本の声がまるでこれが秘め事であるように思わせる。震えた声は皆本の被虐欲を、兵部の嗜虐欲を煽る。
 微かな笑いを空気に溶かした兵部が、身を寄せると同時に皆本のうち奥深くを強く抉った。
「ああっ」
「もう一眠りするにも中途半端な時間だろう? 時間は有意義に使うべきだ」
 掻きだしたはずの行為の名残があったのか、淫猥な水音を奏で始める内奥に少しずつ皆本の息が上がっていく。眠る前にたっぷりとそこを愛された記憶のせいか、襞と粘膜をじっくりと擦り上げる指に皆本は腰を震わせて感じ入った。
 肌を火照らせ官能に戦慄く皆本を、兵部の腕が強く締め付ける。
「いやらしい体だ……。あれだけ可愛がってあげたのに、もう足りなくなった?」
 一度引き抜いた指をゆっくりと内奥深くまで差し込まれて、ぞくぞくとせり上がってくる痺れに皆本は喘がされる。熱い吐息を滴らせた唇を塞がれ、咄嗟に振り払おうとしても強引に舌を絡められると、皆本はいつしか兵部に従わされていた。
 内奥で泳ぐように撫で回す指に、形だけになっていた抵抗の手は縋るものに変わっている。
「ん、あっ、ああっ、……う、んっ」
 体の奥で消えかけていた熾火を再び灯され、皆本の体を淫らに燃え上がらせる。落ち着かないように腰をくねらせて悶える皆本に、兵部の指にも熱が入る。
 弱い部分を擦り、突き上げる指に皆本は喘ぎ声を洩らしながらきつく締め付けた。濡れた音を立てて責める指を、皆本は腰を揺らして受け入れていた。甘く蕩ける下肢を兵部に委ねて、強引な愛撫を堪能する。
 静かに快楽に煩悶する皆本を抱き、兵部の唇が顔から首へ、胸元へと触れ、尖った乳首を舐る。ビクッと体を跳ねさせた皆本に、内奥に挿入されたままの指が蠢いた粘膜を強く擦る。
「あっ、兵部っ――」
 たまらずに皆本が名前を呼ぶと、兵部は優しく聞き返すように返事をし、皆本を体の上に乗せた。兵部に覆い被さる体勢に、皆本が恥ずかしがって顔を背ける。だがすぐに頬に手を滑らされ、後ろ頭を引き寄せられると自分から兵部の唇に吸いついていた。
 薄く開かれた兵部の咥内に舌を差し入れ、吸引する唇に総毛立つような甘い痺れが奔る。唾液を交換しあうように舌を絡ませ、溢れた雫を追って皆本は兵部の首筋に顔を伏せた。
 したいと思った衝動のままに皆本が兵部の肌を吸い上げて顔を離すと、熱情を湛えた眼差しに射竦められる。皆本はこくり、と喉を鳴らして兵部の素肌を撫で下ろし、大切に包み込むように兵部の欲望を握り締めた。
 上下に擦る手の中でビクビクと震える欲望に吐息を熱く濡らし、皆本は乾いた唇を舌で湿らせる。兵部の熱を高めながら、皆本もそれだけの行為で自身を熱く昂らせ、先走りを滲ませた。揺れ動いてしまう腰を兵部に擦り付けて、浮き上がらせた腰で深く慎重に兵部を銜え込んでいく。
「あ……、あぁっ」
 こじ開けられる感覚に皆本は息を詰め、物足りない空虚を埋めようと残りを一気に呑み込んだ。極まってしまったようにピン、と体を伸び上がらせて、皆本は内奥で兵部を感じ取る。力強い脈動と欲望の熱さに吐き出す息が震え、皆本の表情が恍惚に緩んだ。
「一人で楽しむ気か? 皆本」
 からかう声で聞かれて、皆本は水を差された気分でむっとした顔を見せた。余裕たっぷりに見上げてくる兵部を睨むように見下し、皆本がゆっくりと腰を動かし始める。気持ちよくなれる場所を探して自ら腰を振る皆本に、面白がるように兵部の目が細くなる。
 腰の上で踊る皆本の痴態を存分に堪能する兵部が、不意に片手を持ち上げた。兵部の手は淡く色付いた皆本の体を撫で、淫らに濡れそぼったものを握り締める。たまらずに体をかたくして内奥を引き締めた皆本に兵部が小さく笑い、下から突き上げて淫らな踊りを催促する。
「早くしないと夜が明けるぜ」
「わか、ってるっ……」
 皆本の欲望を握る兵部の手は、緩く握り締めたまま動かない。まるで兵部の手と欲望を使って自慰に耽っているような倒錯めいたものを味わいながら、皆本は息を乱して快楽を追い求めた。
目次

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system