目次

  Fallin'  

 肩甲骨が痛む。
 丁寧に短く整えられた爪先が、それでも羽を根元からもぎ取らんとばかりに、強く食い込む。
 痛みに加虐的なそれを覚えながら、腰を強く掴むと仕返しのように身体を揺すり上げる。ぐちゅ、と粘液を掻き混ぜる水音が響き、憐れな艶やかな声が滴る。
 絞り上げるように自身に絡み付いてくる粘膜に軽く息を詰めて、その息を吐き出す。熱を帯びたその吐息に、その身を喰われている青年が紅潮した顔を怯えさせる。
 強張る頬をなぞり、笑みを見せれば反発する意思が潤んだ瞳から垣間見える。
 もう一度、身体を突き上げれば、意思は愉悦を孕む瞳に隠される。
「誘っているのかい? ……君の目はよく語る」
 囁きを落としながら、兵部は首筋に顔を埋め、しっとりと汗に濡れた肌を舐め上げた。吸引しようとすれば、制止をかけるように背中に回った指先に力が篭る。――濡れた瞳は、やめろ、と訴えかけていた。唇はただ、言葉を失くして戦慄くだけ。
 子供の目は、我が儘だ。
 だがその意思を酌んでやる義理は、ない。
 羞恥を抱えて困惑する様を眺めるのは、ひどく気持ちがいい。我ながら倒錯していると、自嘲する。しかし悔い改めるつもりもない。
 そんな気分にさせる、この青年が悪い。
「嫌なら拒めばいい。それを聞き入れてやるかどうかは、別だけど」
 くつり、と笑いを零せば、皆本の顔に嫌悪が走った。
 そんなものは疾うにわかりきっていただろう、と笑みを繕うと今度は苦々しく歪む。
「くそじじい……っ」
 忌々しく吐き棄てられる悪態に、兵部はわざとらしく驚いた顔を見せる。そっぽを向いた顔を顎を掴んで強引に向き合わせ、挑発すれば皆本は簡単に乗ってくる。
 剣呑とした瞳は、相変わらず気分を昂揚させてくれる。
「口が悪いね、君は。さっきまで可愛らしい声を上げていたと言うのに」
 そう言って胸元まで滑らせた手で乳首を抓み上げると、ビクリと身体が反応する。内部の粘膜が蠢き、異物を撫でる感覚に、皆本の目許に朱が走る。
 指先で転がしてやる乳首は固く、散々弄ってやったせいで敏感ともなっているのか、必死に引き結ばれた口から声がくぐもって響く。無意識に、快楽から逃れようと身を捩る姿は、ただ、兵部を煽る。
「くっ――ぅ、やめっ……」
 上擦った制止が耳に心地いい。
 首を振り、くすぶる熱を空気に溶かす唇を舐めれば、動きが鈍る。半開きの唇を舌でやんわりと更に開かせて、奥で縮こまるそれを探る。擦り合わせて、絡め取る。
 わざと響かせる水音に抵抗は弱まった。
 皆本は背筋を撫でる快感に、ぎこちなく身体を緊張させる。舌をきつく吸い上げてやればたまらないと声を洩らし、悔しそうに睨み上げてくる。
「いい加減に、しろよっ」
 顔を振って繋がりが解かれる。
 赤く熟れた唇から飛び出す言葉は甘さの欠片もない。だがそれがひどく心地いい。
 視線一つ、向けただけで怯えを滲ませる姿に、愉快に、不愉快になる。愛想を振りまけと、媚びろとは言わないが、いつまでも頑なな様を見せられれば苛立ちも湧く。
 身体はこんなにも自分を求めているくせに。
 嘲う笑みを零して、兵部は皆本の身体を緩やかに突き上げた。
「は――、あっ、くうぅっ」
 突き上げるたびに、背中に走る痛み。
 まるでその痛みを求めるように身体を動かす自分は、被虐の趣味でも持ち合わせていたか。快楽に、苦悶に歪む顔、引き絞るように喉からせり上がる声に、ゾクゾクと身体が打ち震える。
「たまらないな」
 熱を吐くように囁けば、皆本の表情に一瞬の緊張が走り、次の瞬間には淡く火照った。
 唇を歪めて軽く身体を揺らし、絞り上げるように締め付けてくる粘膜を楽しむ。うねるようなその肉の感触が、嫌悪しながら見上げてくるその眼差しとの温度差が、たまらない。
 反り返り濡れそぼった陰茎を指でなぞると、締め付けがいっそうきつくなる。
「あっ、んんぅっ」
 直接、性感を煽られる行為が嫌なのか、身を捩って暴れる皆本を兵部は簡単に押さえ込む。弱みを握っているのだから、簡単だ。
 背をしならせ、喘ぐ皆本の乳首を舐りながら、熱く脈打つ昴りを擦る。先端から滲む粘液に湿った音が響き、皆本の吐く息も熱く潤んでいく。
「ああっ、あっ、――んっ」
「遠慮するなよ、皆本。好きなだけイってしまえ」
 乳首を噛んで引っ張りながら、囁く。
 身体をどうしようもなく悶えさせながらも、駄々をこねるように首を振る皆本に、兵部が薄く笑う。
 顎を反らし、晒された喉に食らいつき、深く身体を突き刺して、雫を垂らす先端を指で抉れば、あっさりと、熱を噴き上げる。
「あ、ああ――っ」
 絶頂にかたく強張る身体は、兵部を強く締め付ける。収縮するその肉を抉じ開け、繰り返し打ち付ける。
 微かに漂う血の臭い。
 ヒリつくような、背中の痛み。
「ククッ、僕の背中に傷を残した責任は、取ってもらわないとな――」
 身体の奥へと熱を迸らせて、怯えと期待を孕む眼差しを見下ろす。

 くすぐられる征服欲と支配欲。
 しかし、未だに渇きは満たされぬまま――。
目次

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system