春植えざれば　後編　　

　兵部は皆本の首にぶら下がっていたネクタイを引き抜くと、それを皆本の猛ったものへと巻き付けて、根元に結び目を作った。溢れていた先走りにネクタイは濃く色を変え、その上から扱かれると窮屈さにもどかしく腰が揺れる。
「あっ、は、ずせ……っ、兵部っ」
　塞き止められる苦しさに皆本が首を振り、訴えるが兵部はそれには耳を貸さずに容赦なく責め立ててくる。扱かれ、熱く震えるそれは敏感さを増し、指に擦られるだけでもそれまで以上の快感が齎される。
　濡れた先端を指先に弄られ、弾む息で兵部の名を呼べば音を立てて耳の裏に軽く口付けられた。
「君がイく時にはちゃんと外してあげるよ」
「あっ、……ぁ、嫌……っ」
　つまり、それまではこのままだということだ。
　それを悟って首を横に振る皆本に兵部は殊更優しい声で大丈夫と囁き、縛り上げたものを指でなぞる。新たに溢れ出した透明な雫がネクタイのシミを広げていく。
　下肢のわだかまりに全身を震わせる皆本を見つめて、兵部は皆本の先走りに濡れた指先で窄まりを撫で上げる。いきなりそこに触れてきた指に皆本は腰を跳ねさせ、身体を硬く強張らせた。閉ざされた窄まりが弄られ、少しずつ入り口が綻んでくると、やや強引に指が捻じ込まれる。痛みと異物感に皆本は呻きを上げ、浅く深くと出入りする指に慣らされる。
　傷は付けぬよう、指は慎重に奥を目指し、熱く湿った粘膜を擦り上げる。丹念に中を撫で回され、背筋に甘く痺れるような疼きが這い上がってくる。だが快感を覚えるだけ縛られたものが窮屈さを訴え、どうにもならなくなる。
　淫らな連鎖が、徒に皆本を苦しめる。
「あっ、くうぅっ」
　長い指に内奥を掻き混ぜられ、たまらず腰が揺れ動く。
　奥を弄られながらうなじに口付けられると、皆本は小さく声を上げて指を締め付けた。きつく阻む粘膜を押し上げるように指を蠢かされ、皆本は声を呑んで身体を震わせた。
「声を抑える必要はないだろう？」
「そん、なの……、僕の勝手だろっ」
　弾む息を抑えて肩越しに視線だけを寄越してやると、兵部は皆本の内奥を指で弄んだまま、考える素振りを見せる。
　憎たらしさに皆本がふいっと顔を背けると、笑みを洩らしながら兵部が肩口に唇を押し付けてくる。
「拗ねたかい？」
　囁きにたっぷりと含まれたからかいに気付かないほど、理性はまだ手放していない。
「誰が拗ねるか。ご機嫌取りのつもりならネクタイを外せ」
　鬱陶しがるように肩で兵部を押しやり、呆れに近い溜息を洩らす。すると、根本まで押し込まれた指が内奥で小刻みに揺らされた。
「あっ……」
　抑えきれず声を上げて背中を反らす皆本に、兵部が戦慄いた腰を撫でて前へと手を伸ばす。塞き止められる苦しさを感じながらも、押し寄せてくる愉悦に反り返ったものを確かめるように指先になぞり上げられ、先端から滲む雫を塗り広げられる。
　身体をくねらせて皆本は官能に悶え、意識しないままに何度も兵部の指を締め付けた。爪で掻くようにうねる粘膜を擦られると、上擦った声が零れる。
「そのおねだりは聞けないな。もう少し可愛い言葉でおねだりするなら考えてあげてもいいけど」
「どう、せっ……考えるだけだろっ」
「ご名答。それにこれだけ濡らしてひくつかせてるんだから、問題はないだろう？　あるとすれば――、君が感じ過ぎちゃうくらいかな」
　ぐっと奥まで捻じ込まれた指が激しく抜き差しを繰り返し、感じやすく蕩けた粘膜が擦り上げられる。たまらずに兵部の指を締め付けながら、皆本は湧き上がる愉悦に喉を震わせた。
　どうしようもない苦しさまで感じさせられているのに、全身に広がる愉悦には敵わない。
「あっ、あ、ああぅっ」
　じっくりと皆本を感じさせて、指が引き抜かれていく。粘膜を擦り、最後まで愉悦を齎していった指に解放されると皆本は無意識に深く、熱い息を吐き出していた。
　刺激を失くした内奥が物足りなさを訴えるようにひくつきを見せると、その僅かな間身体を離していた兵部に震える腰を捕まれた。ゆっくりと窄まりが押し広げられ、熱く猛ったものを呑み込まされていく。
　無理に暴かれる苦痛とそこから生じる官能に、皆本は身体を捩り切なく声を上げる。背筋を駆け上がってくる快感に我知らず逃げを打つ腰が抱え込まれ、繋がりが深まる。はちきれんばかりに膨れたものが苦しくて、たまらずに声を滴らせながら解放するようにねだると、腰を密着させ一息吐いた兵部が手探りでそれを揉みしだく。
「あうっ、はっ、あ……、やめっ……」
　背を反らして悶える皆本に容赦することなく、兵部は熱く昂ったものを扱き上げ、透明な雫を滴らせる先端を爪の先でくすぐった。
「ん――っ、あっ、あうっ」
　皆本は身体を強張らせて懸命に首を振るが、奥深くにまで挿入されたもので内奥を掻き混ぜられると余裕など簡単に奪われてしまう。官能に悶える身体で受け止めるのが精一杯で、しかしその苦しささえ甘美なものを味わわせる。
　無意識のうちに、自ら求めるように腰を揺らしていたことにさえ、気付かない。
　掻き集めたシーツを手の中に握り締めて、身体を突き上げる昂りに内奥深くまで開かれる。
「楽になりたい？」
　縛られ、恐ろしく敏感になったものを擦りながら訊ねてきた兵部に、皆本はその意図を考え答えを詰まらせた。だが意地悪く腰を揺らして奥を掻き混ぜられると、目先の苦痛と快感に意思が弱まる。
　代償に何を求められるのか、怯えを抱きながらも首を縦に振れば、次の瞬間には景色が変わっていた。繋がったままの身体が抱き起こされ、兵部の腰の上に座らされる。自重で深く、兵部のものを呑み込み、両足を大きく開いた格好で下から突き上げられる。
「ぅ、ああっ……！」
　軽い絶頂を迎えてしまったかのように、全身が小さく痙攣を起こす。知らず詰めていた息を大きく吐き出して、身体は内奥深くに突き立てられた熱をきつく絞り上げる。
　大きくしならせた背中に口付けられ、皆本は肩を跳ね上げると同時に蠕動する粘膜で兵部を締め付けていた。
「やっぱり感じ過ぎてるみたいだね。中がいつもよりいやらしくうねって、僕のを締め付けて離さない」
「はあっ……、あっ、ああっ」
　揺さ振るように腰が動かされ、下から突き上げられる圧迫に戦慄いた手が兵部の腕に縋る。反り返ったものをなぞる指に、兵部の腕を掴んだ手に力が篭る。
　きつく兵部の熱を締め付けながら皆本は身を捩らせ、苦痛から少しでも逃れようと腰を浮かす。だがすぐに身体を引き戻され、奥まで咥え込まされたまま突き動かされると皆本は啜り泣きのような声を洩らしていた。
　行き場のない快楽が身体の中で荒れ狂い、思考すらままならなくなる。
　皆本が身体を踊らせる度に浮き上がる肩胛骨を啄み、兵部はしなやかな肢体を愉しんでいた。淫らな熱に汗を浮かべ、火照った肌に唇や舌で愛撫を繰り返すと甘えるようにうねる粘膜が絡み付いてくる。
　熱く、息を吐いた皆本に兵部はふっと吐息で空気を揺らし、手慰みに弄るように空しく震える皆本のものに指を絡めた。
「はあっ……、あっ、く――ぅっ」
「そろそろイかせてあげようか。君に嫌われたくないし」
　低く笑いながら身体を揺すられ、皆本は腰を震わせて鼻を甘く鳴らした。
「安、心しろ……っ、は、――お前なんか、とっくに嫌い、だ……あっ、んんぅっ」
　減らず口を零した途端に強く昴りを握り締められ、激しく扱かれる。ビクビクと腰を震わせ、張り詰めたものにこれ以上触れて欲しくはないのに、被虐的な愉悦が込み上げてくる。気を緩めれば恥知らずな言葉を口走りそうで、皆本は兵部に揺さ振られながら深い官能に悶えた。
　懸命に甘い責め苦を堪え忍ぶ皆本を容赦なく追い詰めて、兵部はしとどに濡れそぼったものを緩く握り締めると戒める結び目に指をかけた。
「これ以上は本当に嫌われそうだしね」
　皆本の罵言など聞いていなかったように兵部は楽しげな口調で囁いて、ネクタイを解いた。すかさずに内奥を突かれながら反り返ったものを擦られる。前後から押し寄せてくるどうしようもないほどの官能に、抗うことなど出来るはずがなかった。
「ああっ、あっ、う……んっ、ああっ」
　兵部をきつく締め付けたまま、皆本は白濁を迸らせた。背をしならせて絶頂を迎え、身体を満たす愉悦に熱く濡れた吐息を恍惚と吐き出してしまう。
　そのまま崩れてしまいそうな身体を兵部に預け、だが余韻に浸る前に腰を引き寄せられ強く突き上げられる。
　極まった身体を更に快感で責められ、皆本は内奥深くで吐き出される熱を感じながら、自ら腰を揺らして狂おしい官能を貪っていた。
　淫らな熱に溶かされたままの意識を引きずって、促されるまま限界まで振り向かされた体勢で舌を絡める。猛ったままの熱を愛撫するように蠕動する粘膜に皆本が腰を戦慄かせると、口付けたまま兵部が笑う。
「あ――んっ」
　両足を抱えて熱が引き抜かれ、その感触にすら肌が甘く震えた。抱えられた身体は仰向けに倒され、溶けて綻んだそこにまた熱を押し当てられる。
「あっ……よせっ」
「まだ物足りないだろう？　僕もやっぱり、君の顔を見ないと物足りなくてね」
「うっ、――あ、んうっ……」
　囁きを落として身体が貫かれ、皆本は大きく胸を喘がせると覆い被さる男を見上げた。相変わらず飄然として、小憎たらしい顔を見せてくれるくせに、濃紺は情欲にぎらついている。
　震える腕を持ち上げて乱れもない学生服に手をかければ、兵部が小さく苦笑する。
「気にすることかい？」
「……僕ひとりがこんな格好をさせられてるのが気に食わないだけだ」
　勘違いするな。と赤らんだ顔で釘を差して、学生服とシャツのボタンを外していく。少しずつ肌が露わとなり、最後のボタンを外し終えると、ベッドの上に投げ出す前に腕を掴まれ、口を塞がれる。
　重ねた唇の中で呻きを響かせ、微かに耳に届く衣擦れの音に妙に鼓動が逸り始める。ゆっくりと、丹念に粘膜が擦られ、息を乱す皆本に徐々に動きは激しくなる。
　互いに指を絡ませ握り合って、皆本はぐっと内奥に押し込まれる熱を締め付けた。
「ああっ、あっ、あうっ……」
　再び昴りだした身体の歯止めは、脆かった。ひたすら突き上げられ、内奥深くを抉られる度に皆本は身悶え、腰をくねらせた。力強く脈打つ熱に粘膜が擦られ、そのたびにたまらない官能が湧き起こってくる。
　身体の奥を突かれる衝動だけで皆本のものは浅ましく反り返り、刺激を求めて震えていた。鍛えられた腹筋に擦られるだけでも、自ら擦りつけるように腰を揺らしてしまう。
「ああ、やっぱり。こっちがいいかもね」
　律動を刻みながら、ふと兵部が零した言葉に皆本は熱に潤んだ眼差しを向けた。
「君の感じ入った顔も、いやらしい場所も丸見えだ」
　快楽に茫洋とする皆本にも理解させるようにゆっくりと言葉を紡いだ兵部に、それを理解した瞬間顔が赤く染まる。無意識に内奥を締め付けてしまってもいて、その反応に自分で驚く。
　兵部は唇を笑みに歪めた後、また身体を揺さ振り始める。皆本は胸中に悔しさを吐き捨てると、己を翻弄する男へと手を伸ばした。