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  浚う腕 後編  

 ベッドライトの仄かな明かりに照らされたシーツの上で、紅葉は身体を硬くして熱い息を吐き出していた。一枚ずつ服を脱がされながら触れられた肌は熱く昂り、部屋に満ちる淫靡な性の匂いに顔が切なく歪む。
 下着から零れ落ちた乳房は、戯れに与えられた刺激により頂にある突起を硬く尖らせていた。豊かな胸を五本の指が優しく揉みしだき、時折悪戯な指先が突起を掠めていく。
「…ぅ……ん…っ」
 強張り、込み上げてくる官能に惑うようにくねる引き締まった腰を、宥めるかにそっと手のひらに撫でられる。だがその手つきにはどこか捕らえるような強引さがあり、紅葉は伏せた瞼の上で睫毛をか細く震わせた。
 胸へと置かれた男の手は紅葉の官能を引き出させるように、円を描くように何度も撫で回し、柔らかく揉む。指先に蹂躙される逆側では先端の突起に吸い付かれ、それを両方交互に与えられると紅葉は震えるような声を洩らした。
 成すがままに翻弄され、指がシーツを強く握り締める。
「はぁ…ぁっ…」
 身体の中に響く甘い痺れにどうしようもなく戦慄く足が、投げ出したシーツの上で突っ張り白い波を立たせる。太腿で挟み込んだ男の身体にびくりと怯え、だが尖らせた舌先に乳首を刺激されると紅葉は顎を仰け反らせて喘いだ。
 熱く身体の内部に籠もった熱を吐き出す唇に真木の唇が重ねられ、舌が潜り込んでくる。積極的に舌を絡ませ合い、持ち上げた片手で男の頭を抱き締めれば、ふっと笑うような気配が伝わってきた。指に髪を絡ませるように撫で回し、舌を吸われると抜ける力に腕を落としてしまう。
「…ひ、きょうよ……」
「なんのことだ?」
 涙の膜の張った瞳で睨み上げても、真木は余裕の笑みを浮かべて紅葉の唇へと軽く口付けた。それからゆっくりと反らされた喉を伝い、胸に顔を埋めて、その柔肌に舌を這わせ吸い付きながら、真木は紅葉の足を開かせる。
 慌てたように紅葉の手が真木の手を制しようとするが、その抵抗に意味はない。両脚を開かせた真木は紅葉の反応を窺うように見つめながら、足の付け根辺りを撫で回す。
 敏感になった肌への愛撫に、紅葉はたまらず腰をくねらせて声帯を震わせた。
 耳から首筋を、顎のラインを辿るように熱い吐息にくすぐられ、戦慄いた唇を塞がれる。口内を蹂躙する舌に、内股を愛撫する指に跳ねそうになる腰を紅葉はじっと耐える。
 武骨な指の蠢くままに好きにさせ、だがその指が両脚の間に触れると、紅葉はビクリと身体を怯えさせた。
「…ぁ……んっ」
 中心に宛がわれた指は慎重に、柔らかな愛撫で紅葉を苛んでいく。羞恥に背けた首筋に唇が這い回り、蝕まれる理性に甘く掠れた声が零れる。
 引き出される官能に身体中がしっとりと汗ばみ、静寂に包まれた部屋には二人の熱を帯びた呼吸と湿った音が響き始めていた。
「……あ…はぁ…っ」
 ヌメリを帯びた指に浅く秘肉を抉られ、身体の奥から甘く疼き出す感覚に紅葉は切なく眉を寄せた。真木に触れられる度、電気が走るような痺れが起こる。洩れる声を無意識に唇を噛んで堪えていると、熱い舌に唇を抉じ開けられた。
 捻じ込まれた舌を拒むこともなく擦り合わせ、押し寄せる快楽の波に紅葉の手はきつくシーツを握り締めていた。
 思考を淫らに翻弄する刺激にやるせなく吐息を震わせて、深く侵入してくる指に身体が戦慄く。抵抗もなく入り込んでくる指が熱い壁を掻き分け、ヌメリに溢れたそこを強く擦りあげていく。
「あ…あぁ……ん…っ」
 襲い来る快感に耐え切れず、全身が愉悦に震えていた。呼吸も荒く胸を上下させて、涙の膜を張った瞳で真木を見つめる。その無防備な表情に真木は目を細め、唇に薄く笑みを浮かべると紅葉の柔らかな髪をかき上げ露にした額に軽く口付けた。
 指を引き抜かれる感触にすら腰を震わせて、それまで埋め込まれていた指の代わりに湿ったそこに宛がわれた熱に、紅葉は夢から醒めたように声を上げた。
「や、まってっ…」
 紅葉の足を抱え上げてのしかかってくる男の身体から逃れようと腰をくねらせ、しかし硬く尖ったままの乳首を吸われ、そこを舌で舐られると身体から力が抜けていく。
「待てない」
 低く囁かれた声に、小さく息を呑む。
 細い腰を押さえつけられゆっくりと身体を貫いていく熱に、紅葉は真木の背に縋って耐えた。灼熱を纏った圧迫感が身体の内部を焼き、あまりの衝撃に声が出せなくなる。
「大丈夫か?」
 埋め込まれた質量に慣れようと深く呼吸を繰り返しているとそう囁かれ、紅葉はくすぐったそうに笑みを零した。
 伝わってくる紅葉をも奮わせる脈動に真木も耐えていることがわかるというのに、どこまでも気遣いの男だ。
 見下ろしてくる男の顔を覗き込むように見上げて頭を持ち上げると、すぐに後頭部を大きな手に支えられ舌が絡み合う。舌に直接響く官能に身体を疼かせると、紅葉の内部で力強く真木が脈を打った。
「平気よ。司郎ちゃんだもの」
「……そうか」
 不器用に返された言葉に浮かべていた笑みを深めれば頬を撫でられ、耳元で小さく囁かれた言葉に呆けている間に、脚を抱え直してゆっくりと突き上げられる。
 跳ねた身体に小さな笑みが落とされてもそれに気を取られる余裕もなく、快楽の波に呑み込まれていく。触れる肌の感触が気持ちよく、逞しい身体に揺さぶられながらその背に爪痕を残す。
「あっ……あぁっ、…んっ…」
 緩やかだった律動が、徐々に速く腰を打ち込んでくる。内部を掻き回す熱に翻弄され、身体をしならせて紅葉は切羽詰った声を上げていた。
 突き上げられながら胸を愛撫されるとたまらない熱に身体が支配される。
「紅葉」
 熱に掠れた低い声で名を呼ぶ男は卑怯だ。腰の奥が重く痺れるような感覚に紅葉の身体は真木を締め付けるように包み込む。敏感な粘膜を何度も出入りする熱に擦られ、性感が極限まで高められる。
 絶頂は、すぐそこにあった。
「あ…ぁ……ん…っ」
 熱い昂りに深々と貫かれると、紅葉は全身を強張らせて絶頂の深い愉悦に酔い痴れた。

 部屋に戻ってきた真木と視線が合えば、真木は驚いたように目を瞠った後、その顔を険しく変えさせた。
「……早く服を着ろ、バカ」
「ひどーい。バカはないんじゃないの?」
 くすくすと笑いながら紅葉は腰の辺りに落ちていたシーツを引き上げて素肌を隠す。最中は気にしないくせに終わった途端気にしだす真木の反応を見たくてあえてやっているのだと告げればこの男はどんな顔をするのだろうか。
 こちらに近寄ろうとはしない男を、その理由を知らない振りをして指先ひとつで呼び寄せる。その仕草にぐっと眉間の皺を深めながらも素直に歩み寄ってくる真木を満足に見つめて、紅葉は同じベッドの中に引きずり込んだ。
 唐突なことに驚きながらも紅葉を見つめれば呆れたように溜息を吐く真木に軽く唇を尖らせて、石鹸の匂いをさせる男の腕を取る。縋るように抱きつく真似はできない。
 複雑な顔は見せても振り払わない真木に紅葉は頬を綻ばせて、さっさと眠る体勢に入る。どれだけ真木が呆れていようとも、やった者勝ちだと知っている。
「一緒に寝ましょ。司郎ちゃん」
 今日はいろいろあって疲れたのだと、最前のことも含ませて告げれば暫くの沈黙の後、深い溜息を吐いて真木も紅葉の隣で横になった。
 逞しい腕に抱き寄せられるまま鍛えられた胸に収まって、伝わってくる鼓動に安心する。
 ゆったりと頭を撫でる手のひらにそっと擦り寄えば、旋毛に唇を押し付けられる。
「おやすみ、紅葉」
 低く落ち着いた声に、先程まで耐えていた眠気はすぐに訪れる。
 紅葉も真木へとおやすみ、と声を掛けて、傍で刻み続けられる鼓動を子守唄に重くなる瞼を閉じて意識を手放した。
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