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  想いは惜しみなく  

「っは、あ、…ぁあ、あっ」
 力強い律動に揺さ振られながら、皆本はもう一体どれくらいの時間が流れたのか、ぼやける頭で考えていた。
 浚うようにホテルの部屋に連れ込まれて、性急な手つきで服を脱がされ身体を煽られ、男の熱を咥えさせられた。身を焼くようなその熱に、皆本の理性が千切れるのも早かった。
「や、んっ、…ン、アァッ!」
 伸ばした舌で掬うように胸を舐められて、敏感に尖った乳首をくすぐられる。歯で、舌で胸を愛撫されて、我慢できない疼きに男の背に縋る。力の篭る手の平を、宥めるように髪が撫でる。
(ぁ……、くすぐ、ったい……。ちくちく、する)
 過敏な肌に触れてくる男の顔は反則だ。やめろといっても、やめてくれない。感じてるんだからいいだろう、と開き直られる。
 それを思い出して、皆本は指に絡む男の髪を引っ張る。夢中で腰を動かしていた男は、髪を引っ張られる痛みに漸く律動を緩めてくれた。
 胸に埋めていた顔を上げて、どうしたと、心配そうな顔を向けてくる。
(やってることと顔とが全然違う……)
 黙って男の顔を見つめていれば、不思議そうに首を傾げる。その姿にほんの少しの愛嬌を見つけ出して、皆本は小さく笑う。
「……なんでもないです、真木さん。だから」
 続けてください、と囁いた唇はすぐに真木によって塞がれた。膝を抱えられぐっと奥まで屹立が入り込んでくると、皆本は息苦しさに呻く。
 ねっとりと熱い舌に口内を弄られて、息が上がる。翻弄されるままに乱されて追い詰められて、男の腹に擦り上げられた皆本の性器から白濁が飛び散る。互いの肌を汚して、皆本が余韻に浸る間も与えられぬまま律動は続く。
「あっ、やっ、…あ、あぁっ」
「すまない。あと少し、だ」
 囁くように低い声でそう告げられて、力をなくしていた皆本の性器がぴく、と震える。きゅう、と無意識に男を締め付けて、漏らされる低い呻き声にじわり、と胸に広がる何か。
 体内を埋め尽くす凶器に貫かれ身体を抉られて、奥へと放たれる、熱。それまで律動をやめもしなかった男が皆本の身体を抱いたまま、じっと射精の心地良さに浸る。その、どこか満足げな表情に、沸き起こるのはちょっとした悪戯心という、意趣返し。
(少しは僕の体のことも考えろ)
 意識して男を締め付けてやると、また低い呻き声が聞こえてくる。その意趣返しが成功すると共に失敗だったと気付いたのはそのすぐ後。
 皆本の身体の中で、男の屹立は元気なままだった。
「……真木さん溜まってるの?」
 呆れながら呟いて、確かに今日は久し振りに男と身体を重ねていることを思い出した。その間皆本も自分で処理もしなかったから、溜まっているのは皆本も同じなのだが。
「……暇がないからな。まだ付き合ってくれるか?」
「いいですよ。明日はどうせ休みですし、家に帰らなくても大丈夫ですから」
「そうか」
 第二ラウンドの要請に首を振らなかったのは、どこか男の声に疲れが混ざっているように感じてしまったからか。
 一応公私は分けて割り切った関係でいるつもりだから、皆本は真木が一体どんな仕事をしているのかはバベルが掴んだ情報でしか知らない。けれど一緒に居ればなんとなく気配で感じてしまうものがあるし、この男の上司を思えば決して楽なものではないのだろう、と予想がつく。
 しかし、だ。与えられるキスに応じながら、皆本はなんだかな、と内心で呟く。どうしてこんな関係になったのか、など今更考えることはしないが、なんとも言い表しがたい関係だ、と思う。
 そう思っているのは、何も皆本だけではなく真木も同じであったが、互いにそれはどことなく感じ取っているのか、暗黙の内に伏せられている。

「っは、あ、ああ……っ」
 漏らした声は反響して浴室内に響く。静かに腰を下ろしていけば浴槽に張った湯が嵩を増し、溢れ出していく。身体の中に沈んでいく屹立を生々しく感じて、押し寄せてくる圧迫感に腰が止まる。
 縋っていた肩を強く握り締めて、これ以上は無理だと首を振る。
「さっきまでお前が咥えていたものだ。入るだろう?」
「入るか、よ…っ、こんなの……」
 散々咥え込まされて馴染まされたものではあるけれど、そもそもが自分で入れるのと入れられるのではだいぶ違う。自ら花を散らす行為にはそれなりの覚悟が必要なのだ。
 一度それを思い知らせてやろうか、と最初の時とは随分違う余裕を見せる男を睨みながら思うが、自分がこの男を組み敷く所を想像して、盛大に不快感が込み上げてくる。なんとも想像したくない画だ。
 それよりも、長々と責め立てられた腰がそろそろおかしくなりそうだ。皆本の体力は限界に来ているというのに、真木からはまだ余裕が感じられる。
(絶倫か、コイツ)
 いくら溜まっていて久し振りだからといってもヤりすぎだ。ここまでこの男と肌を重ねるのも、初めてだ。
「っあ、も、無理…っ」
 腰を沈めようとしても、どうしても裂けてしまいそうで怖い。そうならないことは体験済みだが、こればかりはどうしようもないと思う。そもそもでかいのが悪い。
「わかった。力は抜いていろよ、光一」
 背中を撫でられ、耳元で名前を囁かれ、気の緩んだ瞬間に屹立が入り込んでくる。真木の腰に座らされて奥を突き上げられて、ただそれだけで透明な湯の中で皆本の性器が弾けた。
 身体を反らして上げた甘さを含んだ高い声が、反響して返ってくる。崩れる身体は真木の胸に引き寄せられ、緩やかに体内を掻き混ぜられる。白む意識は本日何度目かの悦楽に溺れる。
「あ、ああ…っ、あ、ぅ……」
「全部飲み込んだぞ?光一」
「う、っさ……、いちいち、言うなよっ」
 力の入らない手で髪を掴み、引っ張る。しかし腰を掴まれ揺さ振られると手から力が抜けていく。
「ひぁ…っ、あ、ぁぁ……っ」
 もうこれ以上は感じたくなくても、肉壁を擦られ性感を煽られると勝手に締め付けてしまう。一応は皆本の身体を気遣っているのかベッドの上で見せた激しさは無く、その穏やかさに、焦れる。
 急き立てるように屹立を締め付けて、自ら腰を振る。波打つ水面に、伝う汗が弾けて消える。
「変な気、遣うなよ、っ、あんたらしくない」
「……後悔するぞ、光一」
「そんなもん、とっくにしてる」
 二重に含まされた意味を悟って、皆本は鼻で笑う。
 所詮は敵同士で相容れることも無く、きっと近い将来に終わりが来る。どんな終わり方でも理性で生きる自分達は無理矢理それに納得するのだろう。
 その時後悔することなど、目に見えて分かっている。
 真木は、皆本の言葉に同意するように目を細めて、笑みを浮かべる。
「お前だけは、この手で飼うのもいいかもしれんな」
「ことわ――、ぁっ、ヒァア…ッ!」
 引き上げた身体を落とされ、それを迎えるように屹立で深く突き上がられ、語尾が嬌声に浚われる。全身を貫くような痺れに皆本はだらしなく口を開けて男の激情に飲み込まれていく。
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